国立天文台科学研究部

私たちの住む太陽系や太陽系外惑星はどのようにして作られたのでしょうか。これまでの研究で、惑星は「原始惑星系円盤」と呼ばれる、若い星をとりまく天体で作られることが知られていますが、その詳しいプロセスは謎に包まれています。


原始惑星系円盤の中で惑星が作られるプロセスにおいて、重要な役割を果たすかもしれないと考えられてきたのが渦巻き状の構造です。これは、原始惑星系円盤自身の重みによってできるものです。渦巻きの中では固体微粒子の合体が効率的に進行し、最終的には惑星の大きさまで成長する可能性があるほか、渦巻き自体が分裂し直接的に惑星となるかもしれません。一方、よく似た形状の渦巻きは、誕⽣した直後の重たい惑星によっても作られることが知られています。つまり、渦巻きの存在だけからでは惑星が⽣まれる直前か直後かの区別をつけることが難しいのです。


国立天文台科学研究部/総合研究大学院大学の大学院生吉田有宏氏が率いる国際研究チームは、この二つの説が、渦巻きの動き方によって切り分けることができるという理論的な予測に着目しました。渦巻きが原始惑星系円盤自身の重みによってできている惑星形成前夜の場合、渦巻きは巻き付くように動き、やがては消えるはずです。一方で、渦巻きがすでに作られた惑星によってできている場合には、渦巻きはその形を保ったまま惑星とともに回転を続けるでしょう。


研究チームが今回着目したのは渦巻きを持つおおかみ座IM星周りの原始惑星系円盤です。研究チームは、アルマ望遠鏡によって2017年、2019年、2024年に取得された7年間にわたる4回の観測で得られた原始惑星系円盤の画像をつなげることで「動画」を作成しました。その結果、渦巻きは巻き付くようなダイナミックな動きを示していることがわかりました。これは、渦巻きが原始惑星系円盤自身の重みによってできているということを意味します。このような渦巻きは、惑星の誕生を促進する役割がありますから、この原始惑星系円盤はまさに惑星形成の直前–天地開闢前夜–にあると考えられます。


この研究成果は Tomohiro C. Yoshida et al. “Winding Motion of Spirals in a Gravitationally Unstable Protoplanetary Disk” として Nature Astronomy誌 に2025年9月24日付けで掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41550-025-02639-y

国立天文台アルマプロジェクトからのプレスリリース:
https://alma-telescope.jp/news/press/vimage-202509.html


私たちは、最も近い高密度星団形成領域である ヘビ使い座A領域 において、ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)とJWST(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)の高解像度観測データを駆使し、この領域の星形成活動の全貌を新たに明らかにしました。最も注目すべき発見は、7つの惑星質量天体 の存在です。そのうち3つは近赤外線点源を伴い、非常に若い浮遊惑星もしくは褐色矮星である可能性が高いと考えられます(図1のALMA OphA 3/4/5)。これらの天体の質量は、木星質量の10倍程度と非常に小さいことが予備的な解析から推測されています。残る4つは赤外線点源を持たない高密度コアで、将来的には浮遊惑星や褐色矮星へと進化する可能性があります(図2のPSS OphA 1/2/3/4)。特筆すべきは、これらの高密度コアが、三重連星系 VLA1623-2417 から伸びるフィンガー状構造 につながっている点です(図2の中央下のパネル)。このことは、惑星質量天体が原始星系から放出された可能性を示唆し、形成と放出の新しいメカニズムを考える手がかりとなります。さらに、ALMAとJWSTの観測を組み合わせることで、新たな原始星アウトフロー・ジェットの同定、HII領域シェル表面でのMHD波由来の縞模様の発見、HII領域からの暖かいガス流の可視化など、これまで知られていなかった多様な構造も明らかになりました。

発表論文
Fumitaka Nakamura , Ryohei Kawabe ,  Shuo Huang ,  Kazuya Saigo , Naomi Hirano ,  Shigehisa Takakuwa , Takeshi Kamazaki , Motohide Tamura , James Di Francesco , Rachel Friesen , Kazunari Iwasaki , and Chihomi Hara:
“Unveiling Stellar Feedback and Cloud Structure in the Rho Ophiuchi A Region with ALMA and JWST: Discovery of Substellar Cores, C18O Striations, and Protostellar Outflows”
The Astrophysical Journal 掲載予定
https://arxiv.org/abs/2509.01122

図1: 新たに発見した3つの浮遊惑星候補天体 (ALMA OphA 3,4,5)
質量は10木星質量程度と予想される
図2: 新たに発見された4つの惑星質量の高密度コア(PSS OphA 1,2,3,4)
質量は木星質量の数十倍程度で重力的に束縛されている

For decades, formation of high-mass stars exceeding 8 solar masses has remained one of astronomy’s greatest mysteries. In a recent study published in Astronomy & Astrophysics, a global team of astronomers, including researchers from Yunnan University, Shanghai Astronomical Observatory and Division of Science of NAOJ, has carried out cutting-edge observations toward a “hub-filament system” (HFS) molecular cloud—a cradle of high-mass star formation, and has uncovered stunning new evidence that challenges current theories and illuminates the multi-scale, dynamical  nature of high-mass stellar birth.

Figure 1. Left: Morphological structure of the hub-filament system (HFS) in target region I18308, showing core spacing distribution. The HFS molecular cloud consists of two distinct filamentary structures (F1 and F2) and a central hub clump. Right: Artistic illustration of multi-scale dynamic mass accretion.

Using the world’s most advanced (sub)millimeter interferometer, ALMA, the research team conducted ~3000AU resolution observations at the 1.3mm wavelength toward the HFS I18308 cloud, a high star-forming region with a textbook example of HFS morphologies (left panel, Figure 1).  The team revealed dual fragmentation modes. Two hub-composing filaments (F1 and F2) exhibit a cylinder-like fragmentation mode, with the quasi-periodic core spacings regulated by the turbulence-dominated fragmentation mechanism. In contrast, the central hub clump shows a spherical-like fragmentation mode, with the core spacings regulated by gravity-dominated Jeans fragmentation mechanism. These findings challenge models predicting a single fragmentation mode across all density scales within molecular clouds (e.g., the global gravitational collapse model).

Moreover, the team did not find high-mass prestellar cores surpassing 30 solar masses; and instead all relatively low-mass cores show a systematic increase in mass and density with evolution. These observed facts support a multi-scale accretion scenario: low-mass prestellar cores form via Jeans fragmentation in the hub, collapse into intermediate-mass protostars, and grow into high-mass stars through hierarchical mass accretion from the filaments, hub clump, and cores (right panel, Figure 1).

Article Information

L. M. Zhen, H-L. Liu, X. Lu, Y. Cheng, R. Galván-Madrid, H. B. Liu, P. Sanhueza, T. Liu, D. T. Yang, F. Nakamura, S. H. Jiao, L. Chen, Y. Q. Guo, S. Y. Feng, Q. Zhang, X. C. Liu, K. Wang, Q. L. Gu, Q. Y. Luo, Y. Lin, P. S. Li, S. H. Li, K. Tanaka , A. E. Guzmán, “Hierarchical fragmentation in HFS I18308 observed as part of the INFANT survey”, Astronomy & Astrophysics, 2025, 70, A47.
https://doi.org/10.1051/0004-6361/202554634

Corresponding Authors: Y. Cheng, H-L. Liu, X. Lu

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)を駆使した観測によって、ビッグバンからわずか約9億年後の宇宙で、15個以上の星団が密集する“ぶどうの房”のような構造をもつ銀河が発見されました。この観測は、重力レンズ効果を活用することでかつてない高解像度と高感度を実現し、これまでの理論やシミュレーションでは予測されていなかった初期銀河の姿を明らかにしました。銀河誕生・進化の理解に新たな視点をもたらす発見です。

JWSTによって撮像された、強い重力レンズ効果を引き起こしている銀河団「RXCJ0600-2007」の近赤外線画像。かつてない高解像度の観測により、15個以上のコンパクトな星団が集まり、「ぶどうの房」のような粒状の構造をなす、宇宙初期の銀河の姿が初めて明らかになりました。(左上拡大図)。(Image credit: NASA/ESA/CSA/Fujimoto et al.)

対象となったのは、銀河団RXCJ0600-2007の重力レンズ効果により拡大された暗く若い銀河。JWSTとALMAによる計100時間以上に及ぶフォローアップ観測により、10パーセク(約30光年)という極めて高い空間解像度で、銀河内部に無数のコンパクトな星団が集まりながらも、なめらかに銀河全体で回転している様子が鮮明に捉えられました。この銀河は、大きさや質量、化学組成、星形成率などの基本的な性質は当時の平均的な銀河と一致しており、同様の“ぶどう状構造”をもつ銀河が他にも多く存在する可能性が示唆されました。

注目すべきは、このような内部構造が、これまでの観測や数値シミュレーションではほとんど再現されてこなかった点です。現在の理論では、回転銀河は比較的滑らかな構造をとると考えられており、このような“粒々した銀河”の発見は、銀河内部でのエネルギーの放射(超新星爆発・ブラックホール等)とそれに伴う星形成のメカニズムに対する理解が刷新される可能性を示しています。

研究代表の藤本征史助教授(トロント大学)は、「私たちが世界をどう見て、認識するかは、文字通り“見る”力に制限されます。今回、かつてない感度と解像度の実現により予想していなかった深宇宙の描像が明らかになってきました。これは、今後の理論研究や望遠鏡開発に新たな目標を与える発見です」と語ります。また、研究メンバーで国立天文台の大内正己教授は、「私たちが住んでいる天の川銀河をはじめ、現在の宇宙には円盤形や楕円形の整った形の銀河が一般的なことを考えると、初期の銀河が”宇宙ぶどう”のように粒々になっていたのは驚きです。理論で予測されていなかったこのような初期の宇宙の姿は、私たちの想像を超えていました。今後もさらに観測研究を進めて初期宇宙の姿を明らかにしていくことが楽しみです。」と加えています。将来的には、次世代の大型地上望遠鏡や宇宙望遠鏡を用いて、多くの“宇宙ぶどう”のような構造を持つ銀河の探索が進むことが期待されます。

本成果はNature Astronomy誌に2025年8月7日付で出版されました。

関連画像:

JWSTとALMAによる銀河の高解像度画像では、コンパクトな星団が集まり“ぶどうの房”のような構造をなしている様子が確認されました。左画像は星の光、右画像はガスの速度分布を示しており、ガスが回転運動していることを表しています。

図1: 重力レンズ効果を利用した、ジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST:左画像)とアルマ望遠鏡(右画像)による深・高解像度のフォローアップ観測により、ゆっくり回転するガス状の銀河の中に、たくさんの小さな星団が存在することが明らかになりました。この図では重力レンズによる光の歪曲効果を補正した、元の銀河のようすを示しています。また右画像の赤色や青色は、回転する円盤を追うように動く赤方偏移または青方偏移するガスのようすを表しています。(Credit:S.Fujimoto)
図2:今回の結果を元に描かれた、回転する銀河内で無数の星団が誕生している宇宙初期の銀河のようす。(Credit:NSF/AUI/NSF NRAO/B.Saxton)

発表者
藤本 征史(トロント大学 天文学・天体物理学科 助教授)

大内 正己(国立天文台科学研究部 教授 / 東京大学宇宙線研究所 教授)

河野 孝太郎(東京大学天文学教育研究センター 教授・センター長)


共同発表機関
トロント大学 ダンラップ観測所

東京大学宇宙線研究所

東京大学大学院理学系研究科

アメリカ国立電波天文台

テキサス大学オースティン校

ダーラム大学

発表論文

Fujimoto et al. “Primordial Rotating Disk Composed of ≥15 Dense Star-Forming Clumps at Cosmic Dawn”

掲載誌:Nature Astronomy(2025年8月7日出版)

DOI: 10.1038/s41550-025-02592-w

open access link

関連リンク

東京大学宇宙線研究所 https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/16747/
本研究で発見された、クエーサーが密集する領域。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCで撮影された背景画像に、クエーサーの密度を赤色で、周囲に分布する銀河の密度を青色で重ねたものです。小さな白枠はクエーサーの位置を、その拡大枠はそれぞれのクエーサーのズーム画像を示しています。(クレジット:国立天文台/SDSS, Liang et al.)

 大規模な可視光観測のデータを解析することで、11個の超巨大ブラックホールが集中した宇宙最大級の領域が発見されました。これほど密集した超巨大ブラックホールの集団が発見されたのは初めてのことです。すばる望遠鏡を用いた追観測やさらなるデータ解析から、この領域は2つの銀河集団の中間に位置しており、中性ガスと電離ガスの境界であることが明らかになりました。超巨大ブラックホールが、「どこで」、「どのように」成長するかという過程の理解に大いに資する発見です。

 誕生から数十億年の初期宇宙には、周囲のガスを大量かつ活発に取り込むことで超巨大ブラックホールが極めて明るく輝く「クエーサー」が多数存在していました。クエーサー間の距離は、最もクエーサーが多かった時代でも通常は数億光年程度です。今回、国立天文台の研究者が率いる研究チームは、スローン・デジタル・スカイサーベイという大規模な可視光観測プロジェクトによって得られたデータの解析から、くじら座方向の約108億年前の宇宙の差し渡し4000万光年の範囲に、11個のクエーサーが密集する領域を見つけました。宇宙最大級の密集で、これほどの密集が偶然に生じる確率はとてつもなく低く、これらのクエーサーは集団で形成され活性化されているものと推定されます。この領域を調べることはクエーサーの活動、すなわち超巨大ブラックホールの成長の謎を解明することに直結します。

 研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いてこの領域を追観測しました。HSCの高い感度と視野の広さを生かし、密集するクエーサーを取り巻く数百個の若い銀河の分布を描き出しました。一般に、銀河の衝突や合体がクエーサーの活動を促進すると考えられていますが、今回発見したクエーサーが密集する領域は、銀河が最も集まっている場所ではなく、2つの銀河集団のちょうど中間に位置していました。さらにデータ解析から、これらの集団を取り巻くガスの分布を調べました。その結果、密集するクエーサーは、ガス密度が中間的な、中性ガスと電離ガスの境界領域に位置することが判明したのです。

 研究チームを率いる国立天文台ハワイ観測所のリャン・ヨンミン特任研究員は、「我々は、クエーサーが宇宙の状態が変わる“縁”に沿って分布していることに気づきました。これは、クエーサーが放つ強い光が周囲のガスの状態を変えていること、そして同時に、作られつつある巨大構造、例えば銀河団の種をトレースしている可能性を示しています」と語っています。研究チームはこの構造を、2つの大陸が衝突して形成されたヒマラヤ山脈になぞらえて、「宇宙のヒマラヤ」と呼んでいます。

 研究チームは今後、共同利用が始まったすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph, PFS)などによる観測を通じて、超巨大ブラックホールの成長史を解き明かしていくことを目指しています。

「宇宙のヒマラヤ」。黄色の×印はクエーサーの位置、黒色の等高線は銀河の密度を示します。背景の色は、赤いほど中性水素ガスの密度が高く、青いほど電離ガスが豊富であることを示します。つまり、左側の銀河集団には中性ガスが、右側の銀河集団の周りには電離ガスが集中していることが分かります。灰色の領域は、画像のモザイク処理が不完全だったり、明るい星の光の影響が強かったりしたために、データとして使えなかった部分です。(クレジット:国立天文台 / SDSS Liang et al.)

詳細記事
宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見:宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける(すばる望遠鏡)
https://subarutelescope.org/jp/results/2025/06/02/3558.html

発表者
梁 永明(リャン・ヨンミン) (国立天文台ハワイ観測所特任研究員)
大内正己(国立天文台 科学研究部 教授/東京大学 宇宙線研究所 教授 )

共同発表機関
自然科学研究機構 国立天文台
東京大学宇宙線研究所
カリフォルニア大学サンタクルーズ校

発表論文
Liang et al. “Cosmic Himalayas: The Highest Quasar Density Peak Identified in a 10,000 deg 2 Sky with Spatial Discrepancies between Galaxies, Quasars, and IGM HI” in Astrophysical Journal
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/adc1bb

関連リンク
東京大学宇宙線研究所
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/16553/

我々の住む宇宙は宇宙線と呼ばれる高エネルギーの陽子や原子核で満たされています。しかし、それらがどこで、どのように加速されているのかはまだよくわかっていません。過去に発生した超新星爆発の名残である超新星残骸が最も有力な宇宙線加速場所の候補であり、超新星爆発の際に放出された物質と星間ガスが衝突して生じる衝撃波で宇宙線が加速されると考えられています。近年の超新星爆発の観測から、超新星爆発の際には周囲に非常に濃い星周物質が存在することが明らかとなりました。この星周物質と爆発の際に放出された物質が衝突して衝撃波を形成し、そこで宇宙線が加速されると、宇宙線が濃い星周物質と衝突してガンマ線やニュートリノを生成します。これらのガンマ線やニュートリノを観測することができれば、宇宙線の加速場所や加速機構を明らかにできる可能性があります。東北大学学際科学フロンティア研究所の木村准教授と国立天文台の守屋助教の研究チームは、超新星爆発が濃い星周物質と相互作用した際に生じるニュートリノ・ガンマ線放射を新たな手法で計算し、2023年に近傍銀河で発生した超新星爆発、SN 2023ixf へと適用することで宇宙線の生成効率に関して制限をつけることに成功しました。研究チームはSN 2023ixfの可視光の観測データと一致する星周物質や超新星爆発の放出物質の構造を輻射流体シミュレーションを用いて求め、そのシミュレーションデータを用いてガンマ線・ニュートリノ放射を計算する手法を構築しました。その手法でニュートリノ・ガンマ線放射を計算した結果、宇宙線の生成効率が10%以上の場合には現状のガンマ線望遠鏡で未検出であったデータと矛盾してしまうことがわかりました。今後、この手法を複数の超新星爆発に適用することで衝撃波における宇宙線の生成効率を明らかにできると期待されます。本研究結果は天文学の専門誌 The Astrophysical Journal に2025年5月2日付で掲載されました。

SN 2023ixf appeared in the Pinwheel Galaxy
Credit:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA
Image Processing: J. Miller (Gemini Observatory/NSF NOIRLab), M. Rodriguez (Gemini Observatory/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab), T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab) & D. de Martin (NSF NOIRLab).

論文情報
タイトル:High-energy gamma-ray and neutrino emissions from interacting supernovae based on radiation hydrodynamic simulations: a case of SN 2023ixf
著者:Shigeo S. Kimura, Takashi J. Moriya
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/adc716
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/adc716

東北大学からのプレスリリース (2025/5/12):https://www.fris.tohoku.ac.jp/feature/topics/detail—id-1557.html

我々の宇宙を記述する最も基本的な枠組みである素粒子物理学の標準模型によると、ニュートリノには電子型・ミュー型・タウ型の3つの種類が存在します。それでは、もし人類がまだ見たことのない第4のニュートリノ(ステライル・ニュートリノ)が存在した場合、いったい何が起こるでしょうか。近年の素粒子実験により、地球上の原子炉から放出される反ニュートリノの個数が理論予言よりわずかに小さいという報告がなされています。ステライル・ニュートリノがもし存在した場合この異常を説明することができるため、この粒子は注目を集めています。もしステライル・ニュートリノが存在した場合、それはニュートリノ振動を介して超新星の過程でも出現しうるため、天文観測によりその兆候をとらえることができるかもしれません。

そこで国立天文台科学研究部の森寛治研究員(日本学術振興会特別研究員)、滝脇知也准教授、郡和範教授、長倉洋樹特任助教(国立天文台フェロー)は、電子型ニュートリノとステライル・ニュートリノの間の振動を考慮した2次元超新星爆発シミュレーションを実現することにより、超新星爆発に対するステライル・ニュートリノの影響を見積もりました。その結果、ステライル・ニュートリノと電子型ニュートリノの混合角が大きい場合、電子型ニュートリノのフラックスが減少するため、超新星爆発が失敗することがあることが分かりました。一方で実際の宇宙では超新星は爆発しているため、こうしたモデルは観測と矛盾します。したがって、超新星の爆発可能性に基づいてステライル・ニュートリノの性質を制約できる可能性が明らかになりました。今後はシミュレーションのセットアップに対する依存性を系統的に調べていくことにより、より精密な制限を目指していきたいと考えています。

本研究の成果は米国物理学会の『フィジカル・レヴュー・D』誌より出版されました。

図 1. ステライル・ニュートリノの性質を示すパラメータ空間(Fig. 1 in Mori et al. 2025)。A-Eは本研究のシミュレーションにおいて採用したパラメータを示す。緑の領域は原子炉ニュートリノの異常から示唆されるパラメータであり、赤い領域は素粒子実験により示唆されるパラメータである。橙色の線は本研究によって示唆される超新星の爆発可能性の境界であり、超新星は橙線の下側でのみ爆発に至る。

【論文情報】

雑誌: Physical Review D 題名: “Core-collapse supernova explosions hindered by eV-mass sterile neutrinos” 著者: Kanji Mori, Tomoya Takiwaki, Kazunori Kohri, Hiroki Nagakura URL: https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.111.083046

図 1. 本研究で開発した3次元超新星モデルのようす。左図は集団振動を考慮しないモデル、右図は集団振動を考慮したモデルである。

超新星爆発は太陽の約10倍より重い大質量星がその一生の最後に引き起こす大爆発です。超新星爆発は星の内部で作られた元素を星間空間にまき散らし、宇宙の物質進化を駆動します。したがって、我々の宇宙を構成する物質の起源を理解するためには、超新星爆発のメカニズムを解明することが必要不可欠です。

 超新星の爆発メカニズムにおいては、ニュートリノと呼ばれる素粒子が重要な役割を担うことが知られています。自然界には3種類のニュートリノが存在し、空間を伝播する過程で互いに入れ替わることがあります。この現象はニュートリノ振動と呼ばれ、この現象を実験的に発見した梶田隆章氏、Arthur McDonald氏に対して2015年のノーベル物理学賞が授与されました。近年の理論的研究によると、超新星内部のような極限的な高密度環境ではニュートリノどうしの自己相互作用によって特殊なニュートリノ振動(集団振動)が発生し、超新星爆発のメカニズムに大きな影響を与える可能性があります。ところが、集団振動を第一原理的に取り扱う手法は計算量が大きいため、これを考慮した3次元超新星爆発シミュレーションはこれまで実現されてきませんでした。

 そこで国立天文台科学研究部の森寛治研究員(日本学術振興会特別研究員)と滝脇知也准教授を含む研究グループは、ニュートリノ集団振動を現象論的に取り扱う手法を採用することにより、集団振動を考慮した3次元超新星爆発シミュレーションを実現しました。計算の結果、物質の加熱に寄与する電子型反ニュートリノのエネルギーが従来の超新星モデルより大きくなるため、超新星の爆発エネルギーが従来の予言に比べて数倍から10倍程度増大することを明らかにしました。一方、ニュートリノ振動を考慮しない従来の多次元超新星シミュレーションでは、実際に観測されている超新星イベントよりも爆発エネルギーが小さくなってしまうという問題が指摘されてきました。本研究は超新星物理学上の十年来の問題であったこの「爆発エネルギー不足問題」が、ニュートリノ振動により解決されうることを明らかにしました。今後はニュートリノ振動をより精密に取り扱う手法を探究するとともに、様々な親星モデルや星の回転等を考慮した同様のシミュレーションを実行していくことで、超新星爆発機構に対するニュートリノ振動のインパクトの全貌を明らかにしていきたいと考えています。

 本研究の成果は『日本天文学会欧文研究報告』より出版されました。筆頭著者の森は、本研究の成果に対して宇宙核物理連絡協議会若手奨励賞を受賞しました。

https://www.cns.s.u-tokyo.ac.jp/ukakuren/indexnew.html

また、本論文中の図は、『日本天文学会欧文研究報告』Volume 77, Issue 2の表紙に選ばれました。

https://academic.oup.com/pasj/issue/77/2

【論文情報】

雑誌: Publications of the Astronomical Society of Japan
題名: “Three-dimensional core-collapse supernova models with phenomenological treatment of neutrino flavor conversions”
著者: Kanji Mori, Tomoya Takiwaki, Kei Kotake, Shunsaku Horiuchi
URL: https://academic.oup.com/pasj/article-abstract/77/2/L9/8081678

図 1:白いもやに覆われた系外惑星の想像図。Image Credit: ESA/Cheops

太陽系外惑星(以下、系外惑星)の大気中には光化学によって生成される”もや”(ヘイズ)が普遍的に存在することが示唆されています。ヘイズは土星の衛星タイタンや冥王星の大気にも存在しており、大気化学過程や惑星気候への影響を調べる上でもヘイズの形成プロセスを理解することは重要です。従来、系外惑星は高温環境であることから、ヘイズは煤のような”黒い“物質でできていると考えられていました。ところが、近年のJWSTによる大気観測では、複数の系外惑星でヘイズが”白い“物質で構成されている可能性が示唆されており、従来の予想に対して疑問を投げかけています。

今回、国立天文台科学研究部の大野和正特任助教は、ヘイズの構成物質組成の進化を考慮した新たなヘイズ形成の理論モデルを考案し、系外惑星のヘイズがどのような物質で構成されているのかを調べました。その結果、従来予想されていた煤のような物質は系外惑星大気では析出せず、代わりにダイアモンドという想定すらされていなかった物質が大気中で形成される可能性が示されました。これは、系外惑星の高温で水素に富んだ大気が、工学分野で広く採用されている化学吸着法によるダイアモンドの低圧合成環境に酷似していることに起因しています。今後は系外惑星の大気観測や、系外惑星大気を模擬した室内実験でダイアモンド合成が実際に起きるか検証することで、系外惑星のヘイズの正体に迫れると期待されます。この研究成果は “Photochemical Hazes in Exoplanetary Skies with Diamonds: Microphysical Modeling of Haze Composition Evolution via Chemical Vapor Deposition”として、米国の天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2024年12月12日付で掲載されました。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad8e67

近傍銀河で発見された超新星のVLBI観測網による電波観測の結果と理論モデルの比較から、親星の質量放出が爆発の数十年前から活発化していたことを解き明かしました。この成果は、大質量星の進化過程の解明に貢献するとともに、国内の小規模なVLBI観測網が突発天体の研究において有効な手段となり得ることを示しています。


超新星は、大質量星が進化の最終段階で起こす大爆発によって明るく輝く天体です。超新星は可視光での観測が一般的ですが、時折電波放射を伴うものも観測されます。爆発前の大質量星である親星が周囲にガスを放出し形成された星周物質と、爆発により飛び散った親星の残骸が、衝突することによって電波放射を生じると考えられています。したがって、超新星の電波の明るさの変化を時間とともに観測することで、星周物質の濃淡が分かり、親星がどのように質量を失い爆発に至ったのかという大質量星の進化の歴史をたどることができます。

2023年5月19日(世界時間)、山形県のアマチュア天文家・板垣公一さんはおおぐま座の銀河M101に超新星 SN 2023ixf を発見しました。SN 2023ixf はII型と呼ばれる種別で、地球からの距離が約2200万光年と非常に近い超新星です。このような超新星は10年に1度程度しか発見されない貴重な天体であるため、国内外の多くの研究グループが追観測を実施しました。

国立天文台水沢VLBI観測所の岩田悠平特任助教(前 科学研究部特任研究員)、冨永望教授、守屋尭助教らの国際研究グループは、VERA、日本VLBI観測網(Japanese VLBI Network; JVN)、韓国VLBI観測網(Korean VLBI Network; KVN)をそれぞれ用いて、SN 2023ixfの電波観測を実施しました。茨城大学が運用する日立32 m電波望遠鏡と、山口大学が運用する山口34 m電波望遠鏡が参加したJVNの観測結果から、爆発の152日後、206日後、270日後の観測で電波放射を検出し、その明るさを測定することができました。VERAやKVNでは検出できませんでしたが、電波強度の上限値を求めることができました。この観測結果を理論モデルに当てはめると、爆発の約30年前から直前にかけて、親星が徐々に激しくガスを放出したことが示唆されました。

今後は、VLBI観測により電波放射源が次第に大きくなっていく様子をとらえ、爆発による膨張運動の測定が期待されます。また、さまざまな超新星について同様の電波観測を行うことで、親星の質量放出の多様性の解明に繋がります。

今回の観測で使用したVLBIは東アジアVLBI観測網やEvent Horizon Telescope などの国際的なVLBIと比較すると小規模ですが、大規模VLBIでは不向きな迅速かつ高頻度での観測の実施や、各VLBIに特有の観測モードを活用することにより、今回の研究成果へと繋がりました。次世代の超大型電波望遠鏡 Square Kilometre Array (SKA) では、広視野・高感度の観測により電波でも超新星のような突発天体が多数発見されることが予想されています。今回の研究成果は、小規模なVLBIがSKA時代における突発天体の時間軸天文学の研究にも有用であることを示したと言えます。

今回の成果は、Iwata et al. “Radio Follow-up Observations of SN2023ixf by Japanese and Korean Very Long Baseline Interferometers” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2025年1月8日(現地時間)掲載されました。

国立天文台水沢VLBI観測所からリリースされた記事は以下をご覧ください。
https://www.miz.nao.ac.jp/veraserver/hilight/20250109_SN2023ixf/

論文情報

Yuhei Iwata, Masanori Akimoto, Tomoki Matsuoka, Keiichi Maeda, Yoshinori Yonekura, Nozomu Tominaga, Takashi J. Moriya, Kenta Fujisawa, Kotaro Niinuma, Sung-Chul Yoon, Jae-Joon Lee, Taehyun Jung, Do-Young Byun, “Radio Follow-up Observations of SN 2023ixf by Japanese and Korean Very Long Baseline Interferometers”, The Astrophysical Journal, 2025

DOI: https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad9a62

助成金リスト

本研究は、以下の支援を受けて実施されました。

  • JSPS科研費 JP23K13151, JP20H01904, JP20H00174, JP24H01810, JP15H00784
  • 台湾国家科学及技術委員会 MOST 110-2112-M-001-068-MY3
  • 台湾中央研究院 AS-CDA-111-M04
  • 韓国研究財団 NRF-2019R1A2C2010885
図1:JVN、VERA、KVNによって得られたSN 2023ixfの電波強度変動。下三角は非検出の観測で、上限値を示している。色は観測した周波数帯を表しており、6.9, 8.4 GHz (赤、青)はJVNによる観測、22, 43 GHz(黄、緑)はVERAとKVNによる観測によって得られた。爆発から152日以降のJVNによる観測でSN 2023ixfの電波放射が検出された。(クレジット:Iwata et al.)
図2:京都大学岡山天文台せいめい望遠鏡で撮影されたM101の可視光画像。超新星爆発が発生する前(左上)と、SN 2023ixfが出現した2023年5月20日(左上2枚目)以降の画像を比較することができる。画像提供:京大岡山天文台/TriCCSチーム(京都大学・東京大学)

研究ハイライトResearch Highlights
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