国立天文台科学研究部

2025.5.7 研究ハイライト

超新星爆発で生じる高エネルギーニュートリノ・ガンマ線放射:輻射流体シミュレーションを用いて宇宙線生成量に新たな制限

我々の住む宇宙は宇宙線と呼ばれる高エネルギーの陽子や原子核で満たされています。しかし、それらがどこで、どのように加速されているのかはまだよくわかっていません。過去に発生した超新星爆発の名残である超新星残骸が最も有力な宇宙線加速場所の候補であり、超新星爆発の際に放出された物質と星間ガスが衝突して生じる衝撃波で宇宙線が加速されると考えられています。近年の超新星爆発の観測から、超新星爆発の際には周囲に非常に濃い星周物質が存在することが明らかとなりました。この星周物質と爆発の際に放出された物質が衝突して衝撃波を形成し、そこで宇宙線が加速されると、宇宙線が濃い星周物質と衝突してガンマ線やニュートリノを生成します。これらのガンマ線やニュートリノを観測することができれば、宇宙線の加速場所や加速機構を明らかにできる可能性があります。東北大学学際科学フロンティア研究所の木村准教授と国立天文台の守屋助教の研究チームは、超新星爆発が濃い星周物質と相互作用した際に生じるニュートリノ・ガンマ線放射を新たな手法で計算し、2023年に近傍銀河で発生した超新星爆発、SN 2023ixf へと適用することで宇宙線の生成効率に関して制限をつけることに成功しました。研究チームはSN 2023ixfの可視光の観測データと一致する星周物質や超新星爆発の放出物質の構造を輻射流体シミュレーションを用いて求め、そのシミュレーションデータを用いてガンマ線・ニュートリノ放射を計算する手法を構築しました。その手法でニュートリノ・ガンマ線放射を計算した結果、宇宙線の生成効率が10%以上の場合には現状のガンマ線望遠鏡で未検出であったデータと矛盾してしまうことがわかりました。今後、この手法を複数の超新星爆発に適用することで衝撃波における宇宙線の生成効率を明らかにできると期待されます。本研究結果は天文学の専門誌 The Astrophysical Journal に2025年5月2日付で掲載されました。

SN 2023ixf appeared in the Pinwheel Galaxy
Credit:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA
Image Processing: J. Miller (Gemini Observatory/NSF NOIRLab), M. Rodriguez (Gemini Observatory/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab), T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab) & D. de Martin (NSF NOIRLab).

論文情報
タイトル:High-energy gamma-ray and neutrino emissions from interacting supernovae based on radiation hydrodynamic simulations: a case of SN 2023ixf
著者:Shigeo S. Kimura, Takashi J. Moriya
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/adc716
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/adc716