国立天文台科学研究部

2025.6.3 研究ハイライト

宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見―宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける

本研究で発見された、クエーサーが密集する領域。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCで撮影された背景画像に、クエーサーの密度を赤色で、周囲に分布する銀河の密度を青色で重ねたものです。小さな白枠はクエーサーの位置を、その拡大枠はそれぞれのクエーサーのズーム画像を示しています。(クレジット:国立天文台/SDSS, Liang et al.)

 大規模な可視光観測のデータを解析することで、11個の超巨大ブラックホールが集中した宇宙最大級の領域が発見されました。これほど密集した超巨大ブラックホールの集団が発見されたのは初めてのことです。すばる望遠鏡を用いた追観測やさらなるデータ解析から、この領域は2つの銀河集団の中間に位置しており、中性ガスと電離ガスの境界であることが明らかになりました。超巨大ブラックホールが、「どこで」、「どのように」成長するかという過程の理解に大いに資する発見です。

 誕生から数十億年の初期宇宙には、周囲のガスを大量かつ活発に取り込むことで超巨大ブラックホールが極めて明るく輝く「クエーサー」が多数存在していました。クエーサー間の距離は、最もクエーサーが多かった時代でも通常は数億光年程度です。今回、国立天文台の研究者が率いる研究チームは、スローン・デジタル・スカイサーベイという大規模な可視光観測プロジェクトによって得られたデータの解析から、くじら座方向の約108億年前の宇宙の差し渡し4000万光年の範囲に、11個のクエーサーが密集する領域を見つけました。宇宙最大級の密集で、これほどの密集が偶然に生じる確率はとてつもなく低く、これらのクエーサーは集団で形成され活性化されているものと推定されます。この領域を調べることはクエーサーの活動、すなわち超巨大ブラックホールの成長の謎を解明することに直結します。

 研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いてこの領域を追観測しました。HSCの高い感度と視野の広さを生かし、密集するクエーサーを取り巻く数百個の若い銀河の分布を描き出しました。一般に、銀河の衝突や合体がクエーサーの活動を促進すると考えられていますが、今回発見したクエーサーが密集する領域は、銀河が最も集まっている場所ではなく、2つの銀河集団のちょうど中間に位置していました。さらにデータ解析から、これらの集団を取り巻くガスの分布を調べました。その結果、密集するクエーサーは、ガス密度が中間的な、中性ガスと電離ガスの境界領域に位置することが判明したのです。

 研究チームを率いる国立天文台ハワイ観測所のリャン・ヨンミン特任研究員は、「我々は、クエーサーが宇宙の状態が変わる“縁”に沿って分布していることに気づきました。これは、クエーサーが放つ強い光が周囲のガスの状態を変えていること、そして同時に、作られつつある巨大構造、例えば銀河団の種をトレースしている可能性を示しています」と語っています。研究チームはこの構造を、2つの大陸が衝突して形成されたヒマラヤ山脈になぞらえて、「宇宙のヒマラヤ」と呼んでいます。

 研究チームは今後、共同利用が始まったすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph, PFS)などによる観測を通じて、超巨大ブラックホールの成長史を解き明かしていくことを目指しています。

「宇宙のヒマラヤ」。黄色の×印はクエーサーの位置、黒色の等高線は銀河の密度を示します。背景の色は、赤いほど中性水素ガスの密度が高く、青いほど電離ガスが豊富であることを示します。つまり、左側の銀河集団には中性ガスが、右側の銀河集団の周りには電離ガスが集中していることが分かります。灰色の領域は、画像のモザイク処理が不完全だったり、明るい星の光の影響が強かったりしたために、データとして使えなかった部分です。(クレジット:国立天文台 / SDSS Liang et al.)

詳細記事
宇宙最大級の超巨大ブラックホールの集団を発見:宇宙の物質分布に新たな謎を投げかける(すばる望遠鏡)
https://subarutelescope.org/jp/results/2025/06/02/3558.html

発表者
梁 永明(リャン・ヨンミン) (国立天文台ハワイ観測所特任研究員)
大内正己(国立天文台 科学研究部 教授/東京大学 宇宙線研究所 教授 )

共同発表機関
自然科学研究機構 国立天文台
東京大学宇宙線研究所
カリフォルニア大学サンタクルーズ校

発表論文
Liang et al. “Cosmic Himalayas: The Highest Quasar Density Peak Identified in a 10,000 deg 2 Sky with Spatial Discrepancies between Galaxies, Quasars, and IGM HI” in Astrophysical Journal
https://arxiv.org/abs/2404.15963

関連リンク
東京大学宇宙線研究所
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/16553/