我々の宇宙を記述する最も基本的な枠組みである素粒子物理学の標準模型によると、ニュートリノには電子型・ミュー型・タウ型の3つの種類が存在します。それでは、もし人類がまだ見たことのない第4のニュートリノ(ステライル・ニュートリノ)が存在した場合、いったい何が起こるでしょうか。近年の素粒子実験により、地球上の原子炉から放出される反ニュートリノの個数が理論予言よりわずかに小さいという報告がなされています。ステライル・ニュートリノがもし存在した場合この異常を説明することができるため、この粒子は注目を集めています。もしステライル・ニュートリノが存在した場合、それはニュートリノ振動を介して超新星の過程でも出現しうるため、天文観測によりその兆候をとらえることができるかもしれません。
そこで国立天文台科学研究部の森寛治研究員(日本学術振興会特別研究員)、滝脇知也准教授、郡和範教授、長倉洋樹特任助教(国立天文台フェロー)は、電子型ニュートリノとステライル・ニュートリノの間の振動を考慮した2次元超新星爆発シミュレーションを実現することにより、超新星爆発に対するステライル・ニュートリノの影響を見積もりました。その結果、ステライル・ニュートリノと電子型ニュートリノの混合角が大きい場合、電子型ニュートリノのフラックスが減少するため、超新星爆発が失敗することがあることが分かりました。一方で実際の宇宙では超新星は爆発しているため、こうしたモデルは観測と矛盾します。したがって、超新星の爆発可能性に基づいてステライル・ニュートリノの性質を制約できる可能性が明らかになりました。今後はシミュレーションのセットアップに対する依存性を系統的に調べていくことにより、より精密な制限を目指していきたいと考えています。
本研究の成果は米国物理学会の『フィジカル・レヴュー・D』誌より出版されました。
【論文情報】
雑誌: Physical Review D 題名: “Core-collapse supernova explosions hindered by eV-mass sterile neutrinos” 著者: Kanji Mori, Tomoya Takiwaki, Kazunori Kohri, Hiroki Nagakura URL: https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.111.083046