2023年1月11日に科学研究部の吉田有宏らの研究成果が発表されました。
「うみへび座TW星」を取り巻く原始惑星系円盤内のガスの量を、アルマ望遠鏡の観測データを用いた新たな手法で測定しました。天体の年齢が比較的高いことから、かなり少なくなっていると考えられていたガスの量が、予想外に多く存在していることが分かりました。惑星系の形成過程を解明するための重要な一歩です。
惑星は、若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤と呼ばれる円盤の中で形成されます。特に⽊星のような巨⼤ガス惑星は、円盤の中のガスを材料として作られます。惑星が作られた後、残ったガスは円盤から外へと流れ出して、太陽系のようにガスが存在しない惑星系になります。このことから、惑星系の形成過程を理解するためには、いろいろな原始惑星系円盤でのガスの量を測定することが必要です。しかし、これまではさまざまな制約のために測定が進んでいませんでした。
総合研究大学院大学の大学院生の吉⽥有宏(よしだ ともひろ)さんを中心とする研究チームは、うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤を観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータを用いて、感度がこれまでより10倍以上高い画像を作成しました。そして、その画像を解析した結果、円盤の中心近くにあるガスが出す電波から、これまでの感度でははっきりと分からなかった特徴を捉えることに成功しました。その特徴は、惑星の⼤気のような、ガスの密度が非常に⾼い場所から放射される電波とよく似ていました。つまり、円盤の中⼼近くにあるガスの密度は、惑星の⼤気と同じくらい⾼くなっていたのです。
解析を進めた結果、太陽系における⽊星軌道にあたる中⼼からおよそ5天⽂単位より内側の領域に、⽊星の質量の7倍にも相当する大量のガスが存在することが明らかになりました。うみへび座TW星は、原始惑星系円盤を持つ他の若い星に⽐べて年齢が高く、これほど⼤量のガスが存在するとは予想されていませんでした。また、この天体の過去の観測データと⽐較すると、⽊星軌道より内側に存在するガスの量が急激に多くなっていることも明らかになりました。ガスは、時間の経過とともに円盤の内側へとゆっくり移動していると考えられていますが、その移動速度が急に変化すると、ある特定の場所にガスがたまります。このことは、惑星形成の材料となるガスが⽊星軌道付近に集積し、惑星系の形成を促進していることを⽰しています。
今回の研究で、初めてガスの分布を観測的に測定できたことによって、年齢が高い原始惑星系円盤の中にも、惑星形成の材料であるガスが豊富に存在することが明らかになりました。今後は、同様の⼿法を他の原始惑星系円盤にも適⽤し、さまざまな特徴、さまざまな年齢の円盤に存在するガスの量を調べて、ガスが失われる過程や惑星系が形成される過程を明らかにしていきたいと研究チームは考えています。
この研究成果は、Yoshida et al. “Discovery of Line Pressure Broadening and Direct Constraint on Gas Surface Density in a Protoplanetary Disk”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に2022年9月22日付で掲載されました。
関連リンク:アルマ望遠鏡、惑星誕生の現場をピンポイントで特定(2019年6月26日)https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190626-alma.html
国立天文台- https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230111-dos.html