2021.6.29 highlights

ついに発見された理論上の超新星 -明らかになった恒星進化の分岐点-

恒星は内部で核反応を起こすことで長時間自重を支え続けます。質量の小さい恒星は、やがて核反応を続けなくても自重を支えられる白色矮星となって終焉の時を迎えます。質量の大きい恒星は、核反応により中心部で鉄ができると自重を支えきれなくなり、潰れた後に超新星として爆発することが知られています。この境目となる質量は太陽の8倍程度であると考えられています。しかし、この境目付近の質量を持つ恒星がどのような運命を辿るのかは、長い間謎に包まれていました。

 この境界付近の質量を持つ恒星は「電子捕獲型超新星」と呼ばれる特殊な超新星を起こすという理論的な予測が、東京大学の野本憲一教授らによって約40年前になされました。境界付近の質量の恒星は核反応進行に伴う鉄コアの生成に至らずに、酸素・ネオン・マグネシウムからなる中心コアを形成し、電子の力により自重を支えるようになります。やがて電子がマグネシウムやネオンに捕獲される電子捕獲反応が起こり、恒星を支える電子が失われることで潰れてしまうと予測されました(図1)。その結果、超新星として爆発すると考えたのです。

 電子捕獲型超新星の最有力候補としてこれまで考えられていたのは、藤原定家が明月記に記録を残した1054年の超新星でした。記録に残る超新星の位置には現在「かに星雲」が存在します。このため、かに星雲は1054年の超新星の結果できた超新星残骸だと考えられています。かに星雲の質量やエネルギー、そこに存在する元素の量は電子捕獲型超新星の理論から予測される特徴とよく合うことから、1054年の超新星は電子捕獲型超新星であったのではないかと指摘されてきました。科学研究部の冨永望教授と守屋尭助教は、古文書に記録された1054年の明るさの変化が電子捕獲型超新星の理論と合致することを示していました。しかし、現在多くの超新星探査が世界中の望遠鏡で行われているのにも関わらず、電子捕獲型超新星の特徴を併せ持つ超新星は観測されておらず、本当に電子捕獲型超新星が存在するのかははっきりしていませんでした。

 2018年3月2日、山形県のアマチュア超新星ハンターである板垣公一氏により、きりん座の方向で爆発直後の超新星2018zdが発見されました(図2)。また、千葉県のアマチュア超新星ハンターの野口敏秀氏の観測により、爆発直後の詳細な明るさの変化が記録されました。これを受け、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の博士課程学生である平松大地氏を中心とする観測チームが結成され、世界中の地上望遠鏡と宇宙望遠鏡でこの超新星の詳細な観測が行われました。以上の観測の結果、この超新星は通常とは異なる特徴を多く持っていることが明らかになりました。冨永教授と守屋助教の協力のもと、超新星2018zdの観測から超新星に含まれる元素の量や爆発エネルギー、星周環境が推定され、その結果は電子捕獲型超新星の理論予測と一致するものでした。さらに、偶然にもハッブル宇宙望遠鏡が超新星の現れる前に超新星の場所を観測しており、超新星となった恒星の爆発前の姿を捉えていたことも判明しました。爆発前のデータから、爆発した恒星は太陽の約8倍の質量を持っていたことも明らかになりました。この結果、超新星2018zdは電子捕獲型超新星が持つと予測された全ての特徴を持った初めての超新星であることが明らかになりました。ついに電子捕獲型超新星が発見されたのです。

 白色矮星と超新星の境目は、恒星の理論、核反応の理論、超新星爆発の理論など、様々な理論が交差する部分です。そのため理論予測の不定性も大きく、これまで本当に電子捕獲型超新星が存在しているのかもはっきりしていませんでした。どの質量の恒星が白色矮星となり、どの質量の恒星が超新星となるのか。これは宇宙の元素の起源などを知る上で必要不可欠な情報です。また、超新星は中性子星やブラックホールを残すため、その起源を知るためにもこの境目で何が起こるのかを知ることが必要になります。今回の研究で電子捕獲型超新星が存在することが観測的に示されたことで、恒星進化の全体像の理解に重要なピースが埋まることとなり、これは様々な元素や中性子星の起源に迫るうえでの大きな一歩になると考えられます。

 今回の研究結果に関して、研究をリードした平松氏は「僕はいつもこの超新星は何か変で面白いなというところから研究を始めます。今研究では、超新星2018zdの観測を重ねるにつれて、その変なところの一つ一つが理論上の電子捕獲型超新星と合っていくことが分かりました。このように、始めは見当もしなかった結論に辿り着くのも、超新星研究の醍醐味だと思います。また、超新星2018zdは母親の還暦の誕生日に爆発したということもあって、とても記憶に残る超新星となりました。」とコメントしています。また、科学研究部の守屋助教は「これほどまで電子捕獲型超新星の理論予測と一致する超新星が存在することに驚きました。恒星の進化の重要な未解決問題に決着をつける大発見であると考えています。」とコメントしています。

 電子捕獲型超新星が初めて捉えられ、その存在が確かめられました。しかし、電子捕獲型超新星がどのくらいの頻度で発生しているのかはまだはっきりとわかっていません。電子捕獲型超新星の発生頻度は、白色矮星となる恒星と超新星となる恒星の境目をより正確に決めるために必要な情報です。また、電子捕獲型超新星の宇宙の元素合成への寄与を知る上にも重要となります。今回電子捕獲型超新星が発見され、その観測的特徴がはっきりしたことにより、類似の超新星の発見が容易となりました。今回の発見をきっかけに、今後多くの電子捕獲型超新星が同定され、その頻度といった詳細な情報が得られるようになると考えられます。

 また、今回の研究では、爆発直後に超新星2018zdが発見されたことがその正体を明らかにする上で重要な役割を果たしました。これはアマチュア超新星ハンターの板垣氏と野口氏による爆発直後の発見と観測によって初めて可能となりました。世界中の大望遠鏡で超新星探しが行われている現代においても、アマチュア天文家による発見が天文学に大きなインパクトを与えていることが示された重要な結果となりました。

本成果は、2021年6月28日に英国の国際学術誌「Nature Astronomy」にオンライン掲載されました。
タイトル:The electron-capture origin of supernova 2018zd(電子捕獲による超新星2018zd)
著  者:Daichi Hiramatsu, D. Andrew Howell, Schuyler D. Van Dyk, Jared A. Goldberg, Keiichi Maeda, Takashi J. Moriya, Nozomu Tominaga, Ken’ichi Nomoto, Griffin Hosseinzadeh, Iair Arcavi, Curtis McCully, Jamison Burke, K. Azalee Bostroem, Stefano Valenti, Yize Dong, Peter J. Brown, Jennifer E. Andrews, Christopher Bilinski, G. Grant Williams, Paul S. Smith, Nathan Smith, David J. Sand, Gagandeep S. Anand, Chengyuan Xu, Alexei V. Filippenko, Melina C. Bersten,  Gastón Folatelli, Patrick L. Kelly, Toshihide Noguchi, Koichi Itagaki

掲 載 誌:Nature Astronomy, DOI:10.1038/s41550-021-01384-2


図1:電子捕獲型超新星の元となる星の内部で起こると考えられる電子捕獲反応の模式図

クレジット:S. Wilkinson; Las Cumbres Observatory


図2:電子捕獲型超新星2018zd(右の明るい点)。左には超新星の発生した銀河NGC 2146が写っている。ラスクンブレス天文台(LCO)により取得された超新星2018zdの画像とハッブル宇宙望遠鏡画像の合成画像

クレジット:NASA/STScI/J. DePasquale, Las Cumbres Observatory