新潟大学自然科学系(理学部)の下西隆准教授、東京工業大学の田中圭助教、バージニア大学のYichen Zhang研究員、国立天文台の古家健次特任助教の国際共同研究チームは、アルマ望遠鏡注1を用いて、地球から約19万光年の距離にある矮小銀河・小マゼラン雲において、「ホットコア」と呼ばれる生まれたばかりの星を包む分子の雲を世界で初めて発見しました。この成果により、宇宙史を通した星・惑星材料物質の化学進化の多様性の研究に新たな展開がもたらされました。
ヘリウムより重い元素(炭素、窒素、酸素など)は、恒星内部の核融合反応により長い時間をかけて合成されるため、宇宙が誕生したばかりの頃にはほとんど存在していませんでした。このような重い元素の少ない環境における星形成やそれに伴う物質の化学進化の様子は未だ多くの謎に包まれています。小マゼラン雲は重い元素が少なく、今から約100億年前の環境に類似しているため、昔の宇宙の物質進化を研究するための良い実験場といえます。
今回の研究で発見された「小マゼラン雲のホットコア」は、通常の環境のホットコアと比べて、複雑な有機分子注2が遥かに少なく、またその分布にも大きな違いが見られました。このような違いは、重い元素の少ない昔の宇宙での物質進化や星形成過程の多様性を示唆する重要な手がかりとなります。
本研究成果は、米国の天体物理学誌「The Astrophysical Journal Letters」に2023年4月4日付で掲載されました。また、論文誌の中から際立った研究を紹介するAAS Novaでもハイライトされました(First Detection of Hot Molecular Cloud Cores in the Small Magellanic Cloud)。
本研究成果のポイント
・世界で初めて、矮小銀河・小マゼラン雲において生まれたばかりの星を包む化学的に豊かな分子の雲を発見
・発見された天体は、天の川銀河内の同種の天体に比べて、複雑な有機分子の量が非常に少なかった
・小マゼラン雲は、今から約100億年前の宇宙に環境が似ており、今回の結果は遥か昔の宇宙における星や惑星の材料物質の多様性を探る重要な手がかりを与えた
注1. アルマ望遠鏡
アルマ望遠鏡(正式には、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array、ALMA)は、南米チリ共和国北部にあるアタカマ砂漠の標高5000メートルに建設された電波望遠鏡です。パラボラアンテナ66台を組み合わせる干渉計方式の巨大望遠鏡で、ミリ波・サブミリ波領域では分解能・感度ともに世界一の性能を誇ります。アルマ望遠鏡は、国立天文台を代表とする東アジア、米国国立電波天文台を代表とする北米連合、ヨーロッパ南天天文台を代表とするヨーロッパ、及びチリ共和国が協力して建設・運用する国際的な共同プロジェクトです。
注2. 複雑な有機分子
天文学では、メタノールのように6個以上の原子からなる有機分子を「複雑な有機分子」と呼んでいます。
研究の詳細
小マゼラン雲にホットコアを初検出–遥か昔の宇宙における物質の化学進化に迫る– (参考:https://sci.nao.ac.jp/main/wp-content/uploads/2023/05/86791b8ac42961beb0b94eb721c130d1.pdf)
論文情報
【掲載誌】The Astrophysical Journal Letters
【論文タイトル】The Detection of Hot Molecular Cores in the Small Magellanic Cloud
【著者】Takashi Shimonishi, Kei E. I. Tanaka, Yichen Zhang, Kenji Furuya
【doi】10.3847/2041-8213/acc031
関連リンク