太陽系外惑星の研究分野は、新しい惑星を検出するだけでなく、すでに検出された惑星の特徴を詳細に調査する(特徴づけ)時代に入りました。このたび、国立天文台・科学研究部の生駒大洋教授が参加する国際研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡での二次食観測法により得られた25個のホットジュピター対する赤外分光観測データに、独自に開発した解析法(大気リトリーバル法)を適用することで、これまでに知られていなかったホットジュピターの大気の温度構造や化学的性質の相関関係を抽出することに成功しました。この研究は、「個々」の惑星の特徴づけから、惑星「集団」の特徴づけへと新たな展開をもたらしたといえます。今回得られた知見は、昨年末に打ち上がった宇宙望遠鏡JWSTや、2029年に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡Arielによって、さらに詳細に調べられ検証されると期待されます。そこでも、今回の研究で行った惑星集団の特徴づけは有用であり、多様な惑星の特徴や形成・進化を理解する上で重要なアプローチになるでしょう。
これまでに約5000個もの太陽系外惑星が発見されています。しかし、その中に、太陽系と類似の構造を持つ惑星系は見つかっておらず、惑星系が実に多様であることが分かってきました。なかでも、「ホットジュピター」と呼ばれる、中心星の近くを周回する巨大ガス惑星は、太陽系には存在せず、その特徴や成因は謎のままです。研究チームは、25個のホットジュピターの大気の特徴を調べるために、約600時間におよぶハッブル宇宙望遠鏡の観測と、400時間以上におよぶスピッツァー宇宙望遠鏡の観測からなる膨大な量のアーカイブデータを再解析しました。その結果、25個のホットジュピターすべてに関して2次食(図2参照)が観測されていたことが分かりました。2次食は地球から見て中心星の後ろを系外惑星が通過するときに起こり、その際の中心星光度の見かけの減少を分光観測することで、惑星大気の成分や温度の鉛直分布を推定することができます。
こうした多くのホットジュピターに関する系統的な特徴づけの結果、研究チームは、ホットジュピターの特徴量の間にいくつかの明確な傾向や相関を見出しました。例えば、今回のサンプルの半数以上の大気において、上空に行くほど温度が高くなる(いわゆる温度逆転が生じている)ことが分かりました。そして、それらの大気は、2000Kを超える高温で、酸化チタン(TiO)や酸化バナジウム(VO)、水素化鉄(FeH)、水素負イオン(H-)を含むことが確認されました。ここから、このような金属種を維持できるほど高温の惑星大気は、中心星光を大量に吸収し、上層大気が加熱されるため、温度逆転を生じるのだと推論できます。また、比較的低温の大気について、H2Oが検出される集団と、H2Oが検出されない集団があることが分かりました。後者の集団については、大気が炭素を比較的多く含むため、化学的にH2Oが生成されないことが示唆されました。その他にも、これまでに個々の惑星の特徴づけから示唆されていたことを、惑星集団の特徴づけによって検証または反証することができました。
この研究成果は、Changeat et al. “Five key exoplanet questions answered via the analysis of 25 hot Jupiter atmospheres in eclipse”として、米国の天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメントシリーズ』に2022年4月25日付で掲載されました。
アストロフィジカルジャーナル・サプリメントシリーズ: https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4365/ac5cc2