2020.6.18 articles

スパースモデリングを応用した画像復元法をアルマ望遠鏡のデータに適用し、惑星系形成の現場を3倍以上に解像して捉えることに成功

 

【研究内容】

 宇宙に存在する多様な惑星系はどのように誕生したのでしょうか?この問いは、自然科学における重要課題の一つです。これを探るには惑星系形成の母体となる原始惑星系円盤の理解が不可欠となります。原始惑星系円盤とは、若い星の周囲に取り巻く低温のガスと固体微粒子(ダスト)から構成される円盤です(以下、円盤と呼ぶ)。古典的な惑星形成論に基づけば、この円盤内でダスト同士が衝突合体することで惑星の芯となる微惑星が形成され、その微惑星が残った円盤ガスをまとうことで惑星が形成されると考えられています。

 近年では、世界最高の解像度と感度を誇るアルマ望遠鏡のミリ波観測(観測波長 ~ 1 mmの電波領域)から、円盤内の溝構造や極端に偏った円盤構造が数多く発見されており、これらは惑星が形成する過程で生じた構造だと考えられています。このような高解像度のミリ波観測は、惑星系形成の現場を解像し、惑星の種であるダストを直接見ることを可能とするため、極めて重要な観測手法です。

 一方で、アルマ望遠鏡のような電波干渉計と呼ばれる観測装置では、複数のアンテナで取得されたデータを合成し、天体画像を復元する必要があります。この処理はやや難解であり、正確な電波輝度分布を取り出すためには高精度な画像復元処理が求められます。この画像復元処理には、これまで、主にCLEAN(以下、従来法)と呼ばれる手法が用いられてきました。これに対して近年では、 スパースモデリングという数理統計手法の応用が注目されています。スパースモデリングでは、電波干渉計の画像復元に用いられる方程式を従来法より適切に解くことで、従来法に比べて約3倍という高い解像度を達成できることがシミュレーションで示されています。近年では、地球規模の電波干渉計であるEvent Horizon Telescope (EHT) によるブラックホール・シャドウの撮像に、スパースモデリングを応用した画像復元法が実用され、その有効性が広く認知されつつあります。しかし、スパースモデリングの性能評価は主にシミュレーションに留まっており、実観測データを用いた科学的実証や、アルマ望遠鏡のみの応用は行われてきませんでした。

 東京大学天文学専攻博士3年・科学研究部(受託院生:指導教員 川邊良平教授)の山口正行氏らの研究グループは、より詳細な円盤構造を高精度に解像することを目標として、スパースモデリングをアルマ望遠鏡で観測された円盤の観測データに初めて応用し、従来法との比較も含めて画像復元法の性能評価を行ないました。検証に用いた天体は、原始惑星系円盤の代表的天体の一つであるHD142527です。この天体はALMAによって様々な観測が行われており、同じ周波数帯で異なる解像度の観測データが存在するため、画像復元法の性能評価に最も適しています。本研究では、低解像度のデータを用いて、スパースモデリングの画像復元を行い、本当に高解像度の画像が作れるかどうかを検証しました(図1)。

 本検証の結果、低解像度のデータをスパースモデリングで画像復元をすれば高解像度の画像を作成しました。従来法で復元した信頼度の高い高解像度画像と比較したところ、両者はよく一致しました。これを定量的に説明すれば、ALMAの装置性能による輝度の測定誤差はおよそ10%ですが、スパースモデリングの復元画像と高解像データを従来法で処理した復元画像の残差は10%未満となり、誤差の範囲で両者が一致します。すなわち、スパースモデリングによって、従来法の約3倍の解像度においても高品質な天体画像を復元できることをALMAの実観測データで初めて実証した重要な研究成果となります。

 この性能評価の結果を踏まえ、研究グループは、高解像度のデータを用いたスパースモデリングの超解像度画像復元を行ないました(図2)。その結果、外側円盤に新たな二重の腕構造が確認されました。このような円盤構造は、どの円盤でも発見されておらず、円盤の形成機構に新しい知見を与えました。このように、本研究は「中心星から遠方における惑星形成のシナリオ」の構築の際に考慮すべき重要な成果を出しました。

(2020/06/18)

【論文について】

題名: Super-resolution Imaging of the Protoplanetary Disk HD 142527 using Sparse Modeling

掲載誌:The Astrophysical Journal, Volume. 895, p84, 2020 [ADS][doi]

著者:M. Yamaguchi, K. Akiyama,  T. Tsukagoshi, T. Muto, A. Kataoka, F. Tazaki, S. Ikeda, M. Fukagawa, M. Honma, R. Kawabe

Contact:

山口正行 [masayuki.yamaguchi.astro ATM gmail.com]