重力レンズ効果は, 遠方にある天体の像が, 天体と観測者の間にある物質分布の重力により歪められる一般相対論的な現象です. 重力レンズによる個々の像の歪みは小さいですが, たくさんの銀河像を統計処理すると, 宇宙論的な距離スケールでの物質密度の地図を描くことができます. 現在世界各国で進行中の銀河撮像観測でも, 重力レンズ効果を利用した宇宙物質地図の作成が進められていますが, 現状の方法で得られる地図には, 銀河固有の性質や観測条件などに起因する雑音が含まれています.
科学研究部の白崎正人特任助教, 東京大学の吉田直紀教授, 統計数理研究所の池田思朗教授の研究グループは, 機械学習の中でも特に進展著しい深層学習の手法を用いて, 観測される宇宙物質地図の雑音を取り除くネットワークを構築しました. このネットワークは, 入力した雑音入りの地図を雑音のない物質地図に変換するもので, 条件つき敵対的生成ネットワークと呼ばれる手法に基づいています. このネットワークを構築するにあたり, 研究グループは, 1000の重力レンズシミュレーションから, 30000もの教師データを抽出することで, ネットワークが安定に学習できることを見出しました. 上の図は, 開発されたネットワークによる画像変換の一例を示しています. 左パネルが入力した雑音入りの画像, 右のものが雑音のない真の宇宙物質分布で, 真ん中のパネルにネットワークが予言する雑音除去の結果が示されています. 3つのパネルで, 明るい(暗い)領域が高(低)物質密度を表しています. 本論文では, 開発したネットワークが予言する物質分布地図の統計的な性質を詳しく調べ,宇宙モデルの峻別に利用できる可能性にまで言及しています.
2019/08/19
Reference:
Shirasaki. M, Yoshida. N, and Ikeda. S., Physical Review D, 100, 043527 [ADS] [doi]
Contact:
白崎 正人 [reserchmap]