国立天文台科学研究部

2026.6.15 highlights

「軽すぎる中性子星」の謎を解く―SMC X-1の質量を再測定―

SMC X-1の可視光変動機構の模式図。伴星が中性子星の重力によって涙滴型に変形したまま回転することで、一周回ごとに2つの山を持つ光度曲線が生じる。加えて、歳差運動する降着円盤が伴星表面へのX線照射パターンを変えることで、X線の長周期変動と連動して光度曲線の形状が変化する。

内容解説:

宇宙で最も高密度な天体の一つである中性子星が、どれほど軽くなり得るのかは、超新星爆発の仕組みを理解する上で重要な問題です。小マゼラン雲に存在するX線連星SMC X-1は、中性子星の質量が太陽の約1.1倍と推定されており、理論的に予想される中性子星質量の下限に迫る天体として注目されてきました。

中性子星の質量は、連星をなす伴星が重力によってどのように運動しているかを調べることで推定されます。しかしSMC X-1では、中性子星から放射される非常に強いX線が伴星を照らしており、この影響によって質量推定に偏りが生じている可能性がありました。

国立天文台の庭野聖史 研究員らの研究チームは、NASAの系外惑星探査衛星TESSによる高精度の可視光観測と、国際宇宙ステーション搭載のX線観測装置MAXIのデータを組み合わせて解析しました。その結果、可視光の明るさの変化が、約40~60日周期で繰り返されるX線変動と密接に関係していることを発見しました。

研究チームは、この現象を説明するために、歳差運動する降着円盤が伴星へのX線照射パターンを変化させるモデルを構築しました。このモデルは、観測された可視光とX線の変動を同時に再現することに成功し、SMC X-1の長周期変動が降着円盤の歳差運動によって生じていることを支持する結果を得ました。

さらに解析の結果、強いX線照射によって伴星の明るさ分布が大きく偏り、その影響で伴星の運動速度が実際よりも約20%小さく測定されている可能性が示されました。この効果を補正すると、中性子星の質量は従来の約1.1太陽質量ではなく約1.35太陽質量となり、一般的な中性子星と同程度になることが分かりました。

今回の成果は、SMC X-1が「極端に軽い中性子星」であるという従来の見方を見直す可能性を示すとともに、X線連星における質量測定の精度向上に新たな道筋を与えるものです。また、中性子星形成の起源や超新星爆発の理解にも重要な手掛かりを提供すると期待されます。

論文情報

タイトル:Optical super-orbital modulation of SMC X-1: Disk precession and a revised pulsar mass
著者:Masafumi Niwano, Nobuyuki Kawai, Michael Fausnaugh
掲載誌:Publications of the Astronomical Society of Japan
DOI:10.1093/pasj/psag069