ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)を駆使した観測によって、ビッグバンからわずか約9億年後の宇宙で、15個以上の星団が密集する“ぶどうの房”のような構造をもつ銀河が発見されました。この観測は、重力レンズ効果を活用することでかつてない高解像度と高感度を実現し、これまでの理論やシミュレーションでは予測されていなかった初期銀河の姿を明らかにしました。銀河誕生・進化の理解に新たな視点をもたらす発見です。
対象となったのは、銀河団RXCJ0600-2007の重力レンズ効果により拡大された暗く若い銀河。JWSTとALMAによる計100時間以上に及ぶフォローアップ観測により、10パーセク(約30光年)という極めて高い空間解像度で、銀河内部に無数のコンパクトな星団が集まりながらも、なめらかに銀河全体で回転している様子が鮮明に捉えられました。この銀河は、大きさや質量、化学組成、星形成率などの基本的な性質は当時の平均的な銀河と一致しており、同様の“ぶどう状構造”をもつ銀河が他にも多く存在する可能性が示唆されました。
注目すべきは、このような内部構造が、これまでの観測や数値シミュレーションではほとんど再現されてこなかった点です。現在の理論では、回転銀河は比較的滑らかな構造をとると考えられており、このような“粒々した銀河”の発見は、銀河内部でのエネルギーの放射(超新星爆発・ブラックホール等)とそれに伴う星形成のメカニズムに対する理解が刷新される可能性を示しています。
研究代表の藤本征史助教授(トロント大学)は、「私たちが世界をどう見て、認識するかは、文字通り“見る”力に制限されます。今回、かつてない感度と解像度の実現により予想していなかった深宇宙の描像が明らかになってきました。これは、今後の理論研究や望遠鏡開発に新たな目標を与える発見です」と語ります。また、研究メンバーで国立天文台の大内正己教授は、「私たちが住んでいる天の川銀河をはじめ、現在の宇宙には円盤形や楕円形の整った形の銀河が一般的なことを考えると、初期の銀河が”宇宙ぶどう”のように粒々になっていたのは驚きです。理論で予測されていなかったこのような初期の宇宙の姿は、私たちの想像を超えていました。今後もさらに観測研究を進めて初期宇宙の姿を明らかにしていくことが楽しみです。」と加えています。将来的には、次世代の大型地上望遠鏡や宇宙望遠鏡を用いて、多くの“宇宙ぶどう”のような構造を持つ銀河の探索が進むことが期待されます。
本成果はNature Astronomy誌に2025年8月7日付で出版されました。
関連画像:
JWSTとALMAによる銀河の高解像度画像では、コンパクトな星団が集まり“ぶどうの房”のような構造をなしている様子が確認されました。左画像は星の光、右画像はガスの速度分布を示しており、ガスが回転運動していることを表しています。
発表者
藤本 征史(トロント大学 天文学・天体物理学科 助教授)
大内 正己(国立天文台科学研究部 教授 / 東京大学宇宙線研究所 教授)
河野 孝太郎(東京大学天文学教育研究センター 教授・センター長)
共同発表機関
トロント大学 ダンラップ観測所
東京大学宇宙線研究所
東京大学大学院理学系研究科
アメリカ国立電波天文台
テキサス大学オースティン校
ダーラム大学
発表論文
Fujimoto et al. “Primordial Rotating Disk Composed of ≥15 Dense Star-Forming Clumps at Cosmic Dawn”
掲載誌:Nature Astronomy(2025年8月7日出版)
DOI: 10.1038/s41550-025-02592-w
関連リンク
東京大学宇宙線研究所 https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/16747/