国立天文台科学研究部

2025.4.9 研究ハイライト

ニュートリノ集団振動を考慮した3次元超新星爆発シミュレーションの実現

図 1. 本研究で開発した3次元超新星モデルのようす。左図は集団振動を考慮しないモデル、右図は集団振動を考慮したモデルである。

超新星爆発は太陽の約10倍より重い大質量星がその一生の最後に引き起こす大爆発です。超新星爆発は星の内部で作られた元素を星間空間にまき散らし、宇宙の物質進化を駆動します。したがって、我々の宇宙を構成する物質の起源を理解するためには、超新星爆発のメカニズムを解明することが必要不可欠です。

 超新星の爆発メカニズムにおいては、ニュートリノと呼ばれる素粒子が重要な役割を担うことが知られています。自然界には3種類のニュートリノが存在し、空間を伝播する過程で互いに入れ替わることがあります。この現象はニュートリノ振動と呼ばれ、この現象を実験的に発見した梶田隆章氏、Arthur McDonald氏に対して2015年のノーベル物理学賞が授与されました。近年の理論的研究によると、超新星内部のような極限的な高密度環境ではニュートリノどうしの自己相互作用によって特殊なニュートリノ振動(集団振動)が発生し、超新星爆発のメカニズムに大きな影響を与える可能性があります。ところが、集団振動を第一原理的に取り扱う手法は計算量が大きいため、これを考慮した3次元超新星爆発シミュレーションはこれまで実現されてきませんでした。

 そこで国立天文台科学研究部の森寛治研究員(日本学術振興会特別研究員)と滝脇知也准教授を含む研究グループは、ニュートリノ集団振動を現象論的に取り扱う手法を採用することにより、集団振動を考慮した3次元超新星爆発シミュレーションを実現しました。計算の結果、物質の加熱に寄与する電子型反ニュートリノのエネルギーが従来の超新星モデルより大きくなるため、超新星の爆発エネルギーが従来の予言に比べて数倍から10倍程度増大することを明らかにしました。一方、ニュートリノ振動を考慮しない従来の多次元超新星シミュレーションでは、実際に観測されている超新星イベントよりも爆発エネルギーが小さくなってしまうという問題が指摘されてきました。本研究は超新星物理学上の十年来の問題であったこの「爆発エネルギー不足問題」が、ニュートリノ振動により解決されうることを明らかにしました。今後はニュートリノ振動をより精密に取り扱う手法を探究するとともに、様々な親星モデルや星の回転等を考慮した同様のシミュレーションを実行していくことで、超新星爆発機構に対するニュートリノ振動のインパクトの全貌を明らかにしていきたいと考えています。

 本研究の成果は『日本天文学会欧文研究報告』より出版されました。筆頭著者の森は、本研究の成果に対して宇宙核物理連絡協議会若手奨励賞を受賞しました。

https://www.cns.s.u-tokyo.ac.jp/ukakuren/indexnew.html

また、本論文中の図は、『日本天文学会欧文研究報告』Volume 77, Issue 2の表紙に選ばれました。

https://academic.oup.com/pasj/issue/77/2

【論文情報】

雑誌: Publications of the Astronomical Society of Japan
題名: “Three-dimensional core-collapse supernova models with phenomenological treatment of neutrino flavor conversions”
著者: Kanji Mori, Tomoya Takiwaki, Kei Kotake, Shunsaku Horiuchi
URL: https://academic.oup.com/pasj/article-abstract/77/2/L9/8081678