2023.5.18 研究ハイライト

電波で初めて検出されたIa型超新星

Erik Kool(ストックホルム大学)、守屋尭(国立天文台)らの研究成果が発表されました。

超新星は星の終焉に引き起こされる爆発です。その中でも白色矮星の起こす超新星は「Ia型超新星」と呼ばれる超新星として観測されることが知られています。Ia型超新星はほぼ一定の明るさを示すことから、宇宙での距離を測る標準光源として用いられてきました。2011年にはIa型超新星の観測による宇宙の加速膨張の発見に対してノーベル物理学賞が与えられています。

ところが、白色矮星がどのように爆発に至っているのかは未だによく分かっていません。白色矮星は単独で存在していても爆発しないため、爆発に至るには何らかのきっかけが必要です。白色矮星の爆発を引き起こす方法の1つとして、隣り合う星(伴星)からの質量降着が挙げられます。白色矮星のすぐ近くに広がった伴星が存在する場合、その表面から白色矮星へと物質が流れ込んでいき、白色矮星に降りていきます。この結果白色矮星の質量が少しずつ大きくなり、白色矮星として存在できる最大の質量に近づいた時に爆発が引き起こされます。この伴星は多くの場合水素を持つ通常の恒星であると考えられていますが、中には水素を持たないヘリウム星からの降着によっても白色矮星の爆発が引き起こされる可能性が理論的に指摘されていました。しかしこれまでこの理論の観測的な証拠は得られていませんでした。

白色矮星に伴星が存在する際、伴星から放出される物質の全てが白色矮星に降着するわけではなく、一部の物質は外へと放出されていきます。このため、伴星からの降着により白色矮星がIa型超新星となる場合、降着に至らなかった物質がIa型超新星の周りを囲っていることが予測されます。このような星周物質中で超新星が発生した場合、超新星によって形成された衝撃波によって電波の波長域で強く光ることが予測されてきました。しかし、これまでIa型超新星の電波での観測は精力的に行われてきたものの、一度も検出されたことはありませんでした。

今回、超新星2020eyjと名付けられたIa型超新星の観測がストックホルム大学の研究者を中心に行われました。この結果、超新星2020eyjを取り囲んでいる物質が主にヘリウムで構成されていることが明らかになりました。さらに、Ia型超新星では初めてとなる電波波長域での検出にも成功しました。観測された電波の明るさと、国立天文台科学研究部の守屋尭助教の計算した理論モデルを比較することにより、超新星2020eyjを起こした系では爆発直前に年間0.001太陽質量前後の質量放出が起こっていることが判明しました。さらにこの物質が主にヘリウムで出来ていることから、初めて水素を持たないヘリウム星からの降着によっても白色矮星の爆発が引き起こされる観測的証拠が得られました。

超新星2020eyjからの電波の検出と星周物質に含まれるヘリウムの存在から、ヘリウム星からの質量降着により発生するIa型超新星の存在が確かめられました。これは謎に包まれている白色矮星がIa型超新星に至る経路を知る上で大きな手がかりとなります。今後は超新星のより精力的な電波観測を通して、ヘリウム星を伴星として持つようなIa型超新星がどの程度頻繁に現れているのかを明らかにしていき、白色矮星がIa型超新星に至る進化の全体像をつかんで行くことができると期待されます。

ヘリウム星を伴星に持つ白色矮星の想像図。白色矮星の爆発後、白色矮星に降着せずに放出された星周物質に爆発噴出物が衝突することで、超新星2020eyjにヘリウムからなる星周物質の兆候と、初めて検出された電波の放射が発生した。credit: Adam Makarenko/W. M. Keck Observatory

この成果は2023年5月17日付のNature誌に掲載されました。
”A radio-detected Type Ia supernova with helium-rich circumstellar material” E.C. Kool, J. Johansson, J. Sollerman, J. Moldon, T. J. Moriya, S. Mattila, S. Schulze, L. Chomiuk, M. Perez-Torres, C. Harris, P. Lundqvist, M. Graham, S. Yang, D. A. Perley, N. L. Strotjohann, C. Fremling, A. Gal-Yam, J. Lezmy, K. Maguire, C. Omand, M. Smith, I. Andreoni, E. C. Bellm, J. S. Bloom, K. De, S. L. Groom, M. M. Kasliwal, F. J. Masci, M S. Medford, S. Park, J. Purdum, T. M. Reynolds, R. Riddle, E. Robert, S. D. Ryder, Y. Sharma, D. Stern, Nature, doi:

関連リンク

国立天文台:https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230518-dos.html

Nature:https://www.nature.com/articles/s41586-023-05916-w