2022.9.30 研究ハイライト

赤色矮星のまわりに地球のような海惑星の存在を予測

科学研究部の生駒大洋教授らの研究成果が発表されました。

近年の系外惑星探査では、地球のような温暖な岩石惑星(いわゆるハビタブル惑星)の発見に関心が集まっています。こうした探査の多くは、惑星の見つけやすさから、太陽系の近傍に多数存在する「赤色矮星」または「M型星」と呼ばれる、太陽よりも低温の星をターゲットとしています。惑星が温暖な気候を維持するためには、適度な日射量だけでなく、適量の海水が必要であることが知られていますが、従来の惑星形成モデルでは、M型星のまわりにそのような条件を満たす惑星が存在する確率は非常に小さいと予測されていました。今回、東京大学大学院理学系研究科博士課程3年の木村真博氏と国立天文台科学研究部の生駒大洋教授は、惑星の形成場である原始惑星系円盤(注1)のガス成分の獲得によって形成される大気とマグマオーシャン(注2)との反応で生成される水に着目し、新しい惑星形成モデルを独自に開発し、あらためて系外惑星のもつ海水量を理論的に予測しました。その結果、M型星のまわりにおいて、地球程度の半径と日射量をもつ惑星のうち数%が適度な海水量をもっていると見積もられました。これは、今後十年以内の探査による、温暖な気候をもつ惑星の発見が十分期待されることを示唆しています。なお、本研究成果は「Nature Astronomy」に日本時間9月30日付で掲載されました。

図1:形成期の岩石惑星において、原始大気とマグマオーシャンとの反応で水(水蒸気)が生成される状態のイメージ図
(クレジット:木村真博)

1995年の初検出以降、太陽以外の星を周回する惑星(系外惑星)はすでに5000個以上検出されています。こうした多数の系外惑星の検出によって、惑星系が宇宙に普遍的に存在することが分かりました。一方で、その大きさや成分、中心星からの距離、日射量について系外惑星が実に多様であることも明らかになりました。これまでに検出された惑星には、地球に近い大きさの惑星も多数存在します。それらの中に地球のような温暖な気候をもつ惑星(いわゆるハビタブル惑星)があるかどうかは、大きな関心ごとのひとつです。地球の生命体には水が必要ですが、気候にも水は重要な役割を果たしています。惑星が温暖な気候を維持するためには、恒星から受ける日射量が適度であることに加えて、適度な水量の海洋が必要であることが知られています。現在の地球はプレートテクトニクスと大陸風化を伴う炭素循環が機能することで温暖な気候を維持できていますが、海水量が地球よりも数十倍以上多くなると、炭素循環が制限され、極端に熱い、もしくは寒冷な気候になると考えられています。

 太陽系では、水を含む岩石または氷天体の飛来によって地球は現在の海を獲得したとする考えが有力視されています。この考え方をM型星まわりの系外惑星に適用した過去の研究は、適度な水量をもつ惑星は非常に稀であると予測を与えていました。M型星は今後のハビタブル惑星探査の主な対象となっていますが、地球のような温暖な気候をもつ惑星が発見される可能性は極めて低いという、いわばネガティブな示唆が得られていました。

 一方、別の水獲得過程として、惑星の形成期に惑星内部で水を生成する過程と条件が生駒大洋教授らの過去の研究で提案されていました。一般に惑星は原始惑星系円盤の中で成長するため、その円盤のガスを重力的に獲得し、水素を主成分とする大気(原始大気)を形成します。また形成途中の惑星の地表面は天体の衝突による熱などによって熔融したマグマの状態(マグマオーシャンという)にあります(図1)。この時、水素ガスとマグマに含まれる酸化物が化学反応することによって水が生成されます。この水生成反応の効果を考慮すると、従来の理論モデルよりも水に富んだ惑星を形成できる可能性があります。

 惑星が獲得する含水岩石の量や水生成反応から得られる水量は惑星形成過程に大きく左右されます。そこで本研究では、太陽系外の海惑星の存在頻度を改めて求めるために「惑星種族合成モデル」を開発しました。このモデルでは最新の惑星形成理論に基づいて惑星の質量成長や軌道進化を追い、その過程で獲得した水の量を計算できます。本モデルでは従来考えられていた含水岩石の獲得に加えて、原始大気中の水生成の効果も新たに取り入れています。

 このモデルを用いた数値シミュレーションの結果、様々な位置に、大きさや大気量の異なる多様な惑星が生成されることが分かります(図2)。その中から、ハビタブルゾーン(注3に存在する惑星を取り出して、獲得した海水量を調べた結果が図3に示されています。図のように、原始大気中の水生成が働く場合には、M型星を公転する系外惑星は非常に多様な水量を保持できることがわかりました。その中には、地球と同程度の海水量をもつ惑星も形成されています。これらの惑星の海水はほとんどが大気中の水生成によって得られたものです。計算データを解析した結果、惑星半径が地球の0.7倍から1.3倍の惑星の数%が温暖な気候を維持するために適切な水量(地球海水量の0.1~100倍程度)を保持している、という予測を得ました。

図2:1万個のM型星(0.3太陽質量)のまわりで形成された惑星の軌道長半径と質量の分布。各点の色は惑星の原始大気の質量分率を表す。破線の枠はハビタブルゾーンにある地球に近い質量の惑星の領域を示している。
図3:M型星(0.3太陽質量)の周りのハビタブルゾーンに位置する、地球程度の質量(0.3–3倍の地球質量)の惑星の海水量分率の頻度分布。緑色が従来のモデルに従い、含水岩石の獲得のみを考慮した計算の結果。橙色が本研究のモデルを用い、原始大気中の水生成の効果を考慮した場合の結果。点線は現在の地球の海水量分率。

国立天文台すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置(IRD)を用いた惑星探査計画や現在稼働中の宇宙望遠鏡TESS、次世代の宇宙望遠鏡PLATO等による探査では、M型星まわりのハビタブルゾーンの中に地球程度のサイズの惑星が100個程度発見されると試算されています。本研究の結果は、その中の数個が地球のような温暖な気候をもつ海惑星であると予測しています。また、赤外線宇宙望遠鏡 JWST や Ariel によって系外惑星の大気スペクトルの観測から大気中の水分子などの存在についても明らかになっていきます。こうした観測によって本研究の理論予測が検証され、地球のような海惑星の形成過程の解明につながっていくと期待されます。

 本研究は、科研費・新学術領域研究「新しい星惑星形成理論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星開拓史の解明」計画研究「惑星大気の形成・進化とその多様性の解明」(課題番号:18H05439)および特別研究員奨励費「水生成を伴う原始大気の進化モデルの構築と系外地球型惑星の獲得水量予測」(課題番号:22J11725)の支援により実施されました。

発表雑誌

雑誌名:Nature Astronomy

論文タイトル:Predicted diversity in water content of terrestrial exoplanets orbiting M dwarfs

著者:Tadahiro Kimura, Masahiro Ikoma

DOI番号:10.1038/s41550-022-01781-1

アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41550-022-01781-1

用語解説

(注1)原始惑星系円盤

新しい恒星が形成される際、材料となる星雲ガスは円盤状となって星の周りを取り囲む。これを原始惑星系円盤と呼び、水素を主成分とするガスと固体(塵)からなる。一般に惑星はこの円盤の中で形成されると考えられている。

(注2)マグマオーシャン

形成期の惑星には、材料となる岩石が頻繁に衝突するため、地表面はその衝突の際の加熱で熔融した状態にある。さらにこの時期の大気の主成分である水素ガスは強い保温効果をもっているため、熔けた岩石は冷えず、全球がマグマに覆われた状態にあると考えられる。これをマグマオーシャンという。

(注3)ハビタブルゾーン

惑星の表面に液体の水が安定して存在できるような範囲を中心星からの距離で定義したもの。惑星がこの領域の中にあることは、温暖な気候を実現するための必要条件の一つと考えられている。