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研究内容/research

大テーマ:惑星形成

惑星形成分野の大目標は、惑星がどう形成したかを理論的に解明し、それを観測的・実験的に検証することである。惑星の形成過程は、例えば生命の根源物質がどのように地球にやってきたのか、そのような条件は普遍的なのかといった問いへの答えへとつながっている。惑星形成を制約する観測事実は多岐にわたっており、下図はその概念図である。

sizegrowth

ここでは、惑星形成を宇宙にある固体物質のサイズ成長の過程と捉えよう。宇宙において固体は超新星爆発やAGB星の周りで作られ、初期サイズはミクロンサイズ以下だと考えられている。このような固体物質が、若い星の周りの星周円盤に到達し、互いに衝突・付着成長を始める。しかし、放っておけば惑星ができるほど物事はそう単純ではない。ダスト実験/数値計算から、ダストの付着成長は高速衝突による破壊や跳ね返りによって阻害されることが指摘されている。理論的には1mmから1m程度のダストはガス抵抗により角運動量を失って円盤寿命より早く中心星に落ちると思われているにも関わらず、円盤の電波観測から、ミリメートルサイズのダストが豊富に存在することが指摘されている。キロメートルサイズの微惑星の太陽系外天体での検証は難しいが、太陽系に残存する微惑星の残骸と思われる小天体は探査機によって調べられ、その空隙や物質強度がわかってきている。更に、系外惑星探査によって発見された系外惑星系は、太陽系とは違ったバラエティを示している。近年、すばる・アルマ望遠鏡、ロゼッタ・はやぶさ探査機、ケプラー望遠鏡等により観測が目覚ましい発展を遂げており、それに突き動かされて理論も発展している。このように、惑星形成分野は現在非常に活発な分野である。

原始惑星系円盤における偏波基礎理論の確立

原始惑星系円盤におけるミリ波偏光は、ALMA以前は観測成功例がほとんどなく、ALMAによって初めて検出されるようになった(e.g., Kataoka et al. 2016b, 2017)。偏光メカニズムは我々の研究によってミリ波散乱偏光が確からしいことが示されたが(Kataoka et al. 2015)、他の可能性が排除されたわけではない。そのため、偏光観測結果を惑星形成に応用する前段階として、原始惑星系円盤の偏光メカニズムの基礎理論の確立が課題となった。ミリ波偏光の理論については、従来星形成領域等で考えられてきた磁場による整列(e.g., Lazarian et al. 2007)以外に、主にダスト自己散乱(Kataoka et al. 2015)、輻射場による整列(Tazaki et al. 2017)、ガス流による整列(e.g., Kataoka et al. 2019)が提案された。惑星形成における制限を得るためには、まず原始惑星系円盤のミリ波偏光という現象のメカニズムを突き止めようとしている。

惑星形成におけるダスト成長の観測的検証

ダストのサイズは、ダイナミクスや微惑星形成効率を決定するため、惑星形成において最も重要な観測的制限の一つである。ミリ波偏光を利用すると、ダスト散乱が起こる波長からダストサイズを制限することができる(Kataoka et al. 2015)。これまでのALMA観測からは、概ねどの円盤においてもダスト散乱は0.9 mmの波長帯で観測されており、ダストサイズが100 µm程度であると結論付けられてきた(e.g., Kataoka et al. 2016b, 2017)。ところが、本結果はこれまでのスペクトルを用いた研究がミリメートルからセンチメートルサイズのダストサイズを示していることと大きく矛盾する(e.g., Beckwith and Sargent 1991, … , Tazzari et al. 2021)。そのため、理論が確立して間もない偏波観測によるダストサイズ制限が確かかどうかの検証を行っている。

ダスト集合体の数値計算と太陽系探査データへの応用

原始惑星系円盤の天文観測は惑星形成の現場を直接捉えるというメリットを持つ一方、微惑星と呼ばれるキロメートルサイズの天体は観測できない。太陽系には、これらの微惑星形成時の情報が残っていると期待される。近年、ロゼッタミッションによる彗星67Pの観測やはやぶさ・はやぶさ2といった探査機によって、彗星や小惑星の詳細構造や物質強度が明らかとなってきた。これらの最新の観測情報を用いて惑星形成理論を制限すべく、物質強度を利用した研究を並行して進めている。

具体的にはダスト付着N体計算を用いて、まず、ダスト集合体の圧縮・引張強度の基礎的定式化を実施した(Kataoka et al. 2013, Tatsuuma, Kataoka, et al. 2019)。これらを探査機の結果と比較した結果、彗星 67P の引張強度は非常に弱く、構成粒子半径が 0.1 μm のダスト集合体では説明できないことがわかった一方で、彗星 67P の引張強度を説明するには、数 μm から数百 μm 程度の構成粒子半径が必要であることもわかった。これは従来考えられてきた 0.1 μm 程度の大きさのダストが集まって微惑星が形成されるという、ダスト成長理論の修正が必要なことを示している。