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A2.線形解析

この章でやること

  • 宇宙物理における線形解析とは何か?
  • Jeans 不安定性を具体例として線形解析でやることを確認する

線形解析と分散関係

宇宙において系は時間発展する。 なんらかの揺らぎがあった際に、そのゆらぎがどんどん大きくなっていけば、それは何かしらの構造を作るだろう。 たとえば、宇宙初期の密度ゆらぎが、重力不安定性によって成長し、宇宙大規模構造へとつながったと考えられている。 もし、とある系が、ゆらぎを与えられてもそのゆらぎを打ち消す方向に働けば、このような不安定からくる構造形成は成り立たないであろう。

線形解析とは、物理量がほんの少しゆらぎを持ったときに、そのゆらぎの2次以降の後を無視して計算してみることで、そのゆらぎが発展するかどうかを判定する手法である。 線形解析を行うことで、どんな条件下で不安定化するかなどを理解することができる。

線形解析の具体例: ジーンズ不安定

もっともよく知られた線形解析の1つは、ジーンズ不安定と呼ばれる重力不安定性であろう。 今回はこれを例にして線形解析を学んでみよう。

さて、とある流体を考える。この連続の式、ナビエ・ストークス方程式、更にはポアソン方程式を書いてみよう。

\[ \begin{aligned} \frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho \mathbf{v}) &=& 0 \\ \frac{\partial \boldsymbol{v}}{\partial t} + (\boldsymbol{v} \cdot \nabla)\boldsymbol{v} &=& \frac{1}{\rho}\nabla p - \nabla \Phi\\ \nabla^2 \Phi &=& 4\pi G \rho\\ \end{aligned} \]

ここで、ナビエ・ストークス方程式において、粘性項は無視し、外力として重力\(\mathbf{F}=-\nabla \Phi\)を考慮した。 今、物理量\(x\)に対して、平衡状態\(x_0\)に対して微小量\(x_1\)の揺らぎを与えたとしよう。 すなわち、\(x=x_0+x_1\)とおく。 例えば、密度に関して言えば\(\rho=\rho_0+\rho_1\)である。

ここで、\(x_1\)は十分小さい量とし、二次以上の項を無視しよう。 例えば \(\rho_1^2\)は無視するし、\(\rho_1 \mathbf{v_1}\)とかも無視する。 だが\(\rho_0 \mathbf{v_1}\)は無視できない。 すると、先程の式は

\[ \begin{aligned} \frac{\partial \rho_1}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho_1 \mathbf{v_0})+ \nabla \cdot (\rho_0 \mathbf{v_1}) &=& 0 \\ \frac{\partial \boldsymbol{v}_1}{\partial t} + (\boldsymbol{v}_0 \cdot \nabla)\boldsymbol{v}_1 + (\boldsymbol{v}_1 \cdot \nabla)\boldsymbol{v}_0 &=& \frac{\rho_1}{\rho_0^2}\nabla p_0 + \frac{1}{\rho_0}\nabla p_1 - \nabla \Phi_1\\ \nabla^2 \Phi_1 &=& 4\pi G \rho_1\\ p_1 &=& c_s^2 \rho_1 \end{aligned} \]

(\(1/\rho\)のテイラー展開に注意)

さて、もともとの平衡解、すなわち\(x_0\)のときは、密度・圧力が一様で速度がゼロだったとすると

\[ \begin{aligned} \frac{\partial \rho_1}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho_0 \mathbf{v_1}) &=& 0 \\ \frac{\partial \boldsymbol{v}_1}{\partial t} &=& \frac{1}{\rho_0}\nabla p_1 - \nabla \Phi_1\\ \nabla^2 \Phi_1 &=& 4\pi G \rho_1\\ p_1 &=& c_s^2 \rho_1 \end{aligned} \]

これを\(\rho_1\)について解くと

\[\frac{\partial^2 \rho_1}{\partial t^2} - c_s^2 \nabla^2 \rho_1 - 4 \pi G\rho_0 \rho_1 = 0\]

分散関係の導出

ここで、解を\(\rho_1= C \exp[i(\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}-\omega t)]\)とおいてみよう。 すると、

\[ \omega^2 = c_s^2 k^2 - 4\pi G\rho_0 \]

となる。これを分散関係と呼ぶ。 系が不安定かどうかは、\(\omega^2\)の符号による。 解を\(\rho_1= C \exp[i(\mathbf{k}\cdot\mathbf{x}-\omega t)]\) とおいているので、もし\(\omega^2>0\)であれば、\(\omega\)は実数であり、普通の波動方程式になる。 もし\(\omega^2<0\)であれば、\(\omega\)が虚数となる。 すると、解の形に\(\exp((\text{実数}\times t))\)の項がつく(正負についてはどっちもありうるので、正確には減衰と発散の両方の解が存在する)。 これは時間が経てばたつほど密度ゆらぎがexponentialに成長してしまうので、不安定と言える。

すなわち、分散関係においては、\(\omega^2\)を導出して、その値が負になるかどうかを判定することで、不安定性を判定できる。

今回の場合は、

\[k<k_J=\sqrt{\frac{4\pi G\rho_0}{c_s^2}}\]

のときに\(\omega^2<0\)のときに解が不安定になることがわかる。

もう少し考えてみると、\(k\)がある波数\(k_J\)より小さいときに不安定、すなわちゆらぎの波長がある波長よりながければ不安定になる解が存在するということになる。

この波長を\(\lambda_J = 2\pi/k_J\)とすると

\[\lambda_J = \sqrt{\frac{\pi}{G\rho_0}}c_s\]

これがジーンズ波長(Jeans length)と呼ばれている。

ついでに不安定性が成長するタイムスケールも求めておこう。 ちょっとだるいのでまともな計算はしないが、タイムスケールはたぶん長さを音速で割ればいいので、\(t_{ff}\sim \lambda_J/c_s = \sqrt{\pi/G\rho_0}\)とでる。ここで、\(t_{ff}\)はfree-fall time, 自由落下時間である。

ちゃんとやるには、とある質量の球を考え、時間進化まで考えて行うと

\[t_{ff}=\sqrt{\frac{3\pi}{32G\rho_0}}\]

と出る。

物理的直感

\(\rho_1\)について解いた式についてじっくり見てみよう。 第3項の重力のタームがなければ、見るからに波動方程式である。 しかし、第3項が効いてくると波ではなくなりそう。 第3項が効いてくるかは、第2項が空間二階微分なので、なんか長ーいスケールの事象のときに第二項が効かなくなって第3項が効きそう。 すなわち、波長が長いところで不安定になりそうなのである。

星形成においてジーンズ波長はよく使われる。 とある分子雲コアの質量・温度・大きさがわかっている場合、ジーンズ波長を計算し、その天体の大きさと比べてみることで、重力優勢かどうかを判定することができる。

線形解析の研究を見たとき

上記において、線形解析の具体例を使いながら、どんな四季が導出可能かを見てきた。 もしあなたが研究会で線形解析の研究を見たら、注目すべきは例えば以下の点になるだろう(言わなかったら聞いてみるといい)。

  • 基礎方程式でおいた仮定は正しいか?
  • 不安定波長はどのくらいの長さか?
  • その波長は考えている系の中で実現可能か?
  • 不安定が成長するタイムスケールはどのくらいか?
  • その不安定の物理メカニズムは?

線形解析が答えられるのはこのくらいで、あとは同じ基礎方程式を用いて行った非線形解析、すなわち数値計算の結果を見て議論することになる。

あたらしい不安定モードを発見する研究は大変素晴らしいがちょっととっつきにくい。 でも、非常に良い研究であることが多いので楽しんで眺めてみてほしい。