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7.ガス円盤中の固体微粒子の運動

Note

2023/06/9は、前半でダスト落下問題の理解、後半でダストサイズの観測的制約の話を行います。 授業ノートはこのリンクのgoogle jamboardを使います。 zoomは通常と同じものを使います。

この章でやること

  • モチベーションとして、惑星形成におけるダスト成長阻害問題について知る
  • ガス円盤中の固体微粒子の運動を(係数は無視して)記述できるようにする
  • ダスト落下問題について数式を用いて理解し、解決策について議論する

原始惑星系円盤の基本的な背景知識

本当に第ゼロ近似で以下のような背景知識のもと講義をすすめる。

  • 原始惑星系円盤とは、第ゼロ近似で、おおよそ太陽質量くらいの重さの前主系列星の周りに、0.01太陽質量くらいのガス円盤が存在し、その中に総量でガスの0.01倍位の重さの固体微粒子(ダスト)が存在する系である。

  • よく観測される原始惑星系円盤とは、第ゼロ近似で、およそ地球から100pc程度の距離に存在し、\(\sim\)10個程度の若い星形成領域の中に\(\sim 100\)個程度ずつの円盤が観測されている。これらの星形成領域の年齢は\(\sim\)100万年程度だと考えられている。

  • ミリ波で観測すると、大きさが\(\sim\mu\)m から\(\sim\)cm くらいの固体微粒子を観測できる。これらの固体微粒子は最終的に惑星になると考えられるので、原始惑星系円盤の理解は惑星形成の直接検証として重要である。

惑星形成におけるダストの合体成長

ここで、惑星形成を宇宙における固体のサイズ成長と捉える。下図は、その概念図である。

Size growth of solids in planet formation

まず、宇宙における固体の誕生を考えてみよう。宇宙の固体の多くは星間ダストとして存在しており、数マイクロメートル以下の固体微粒子である。これらの生成は、ガス相から固相の形成が必要である。これが可能なのは、ガス中に重元素が豊富に存在し、かつガスが冷却される環境下である。その結果、宇宙における星間ダストの生成場所は、超新星爆発時に放出されたガスおよびAGB星の周りの星風であると考えられている。ダスト形成は重要かつ深いテーマなので、詳しく知りたい人は、例えば野沢さんの天文月報記事, (野沢 2015,天文月報, P274)で勉強してほしい。 本講義では、ダストは何らかの成因で宇宙空間で作られたミクロンサイズ以下の固体微粒子である、とし、それ以降の固体のサイズ成長を取り扱う。

惑星形成を固体のサイズ成長という文脈で考えると、初期状態がに数マイクロメートル以下サイズのダストであり、終状態が数千キロメートルサイズの惑星である。 サイズにして1e-5cmから1e9cmくらいなので、実にサイズで14桁、重さにすれば42桁にも及ぶ大幅な成長過程を捉える必要がある。

当然、サイズごとに支配する物理も変わってくる。 だからこそ、サイズごとに物理を考える必要がある。 ここでは微惑星というものを定義して、それより小さい場合と大きい場合を考える。 微惑星とはサイズが数キロメートルの天体のことである。

微惑星より小さい天体は、粒子をつなぎとめる力がファンデルワールス力や水素結合のような直接付着力であると考えられている。 また、光学特性を考えると望遠鏡でも観測が可能である。 さらに、ダイナミクスはガスによって決まっている。

微惑星やそれより大きい天体は、粒子同士は自身の重力によって結びついている。 光学特性を考えると太陽系外天体においては非常に暗く、直接検出はほぼ不可能である。 ダイナミクスは、基本的には中心星重力下で運動をしているが、ガスの影響も受ける。 (だから、重力を考慮した衝突破壊数値計算や、重力を考慮した天体の多体計算が重要になる)

本講義では、微惑星やそれより小さい天体を中心に取り扱う。

では、ミクロンサイズ以下のダストからキロメートルサイズの微惑星を形成する過程において、なにか困難があるのだろうか(たくさんある)。

最もクラシカルな問題は、ダストの中心星落下問題だ。 ダストはある程度成長しミリメートルからメートルサイズになると、中心星の重力ポテンシャルの中を回転運動しようとし、おおよそケプラー速度で回転しようとする。 ところが、周囲にあるガスはケプラー速度より若干遅く回転しているため、ダストは向かい風を受ける形になり、失速し、中心星に急速に落下する。 この問題点は2つある。1つは、ダストの成長よりもダストの中心星落下が早い場合があることだ。 この場合、ダストは微惑星になる前にかならず中心星に落下することになり、微惑星はできない。 もう1つの問題点は、原始惑星系円盤の観測の説明だ。 原始惑星系円盤はおおよそ数百万歳くらいの天体だとされているが、ダスト落下はもっと早いため、数百万年もダストを円盤内に維持することができない。これは、現在ミリ波でダストの出す放射が明るい原始惑星系円盤が多数存在する事実と矛盾する。 どちらにせよ、これのダストの中心星落下問題も解決しないといけない。

ダスト力学の背景場としてのガスの基本構造

ガス円盤の構造については「第4回 降着円盤の基礎」でやっているので、ここではかんたんに振り返る。 ただし、ブラックホール降着円盤ではなく原始惑星系円盤を扱う上での違いに注意する。 座標系は円筒座標系(\(r\),\(\phi\),\(z\))を用いる。

ガスの運動 - ナビエ・ストークス方程式

原始惑星系円盤のガスは流体として扱う。流体の運動方程式はナビエ・ストークス方程式と呼ばれ、以下のような形を持つ。

\[\frac{\partial \boldsymbol{v}}{\partial t} + (\boldsymbol{v} \cdot \nabla)\boldsymbol{v} = \frac{1}{\rho}\nabla p + \frac{\mu}{\rho}\nabla^2\boldsymbol{v} +\boldsymbol{F}\]

圧力項と粘性項だけはその物理的意味を思い出しておいてほしい。どうしても思い出せない人はA1.ナビエ・ストークス方程式を見て導出を思い出しておく。

降着円盤におけるガスの粘性

粘性とは、(長さ)×(速度)の次元を持つ、流体のねばりけを表す量である。

分子粘性

分子粘性とは、流体の分子の運動による粘性で、ガスの平均自由行程\(\lambda_{\rm mfp}\)とガスの音速\(c_s\)を用いて下記のように表される。

\[\nu_m= \lambda_{\rm mfp} c_s\]
分子粘性の値を自分でざっくり見積もっておいてください。答えの一例はクリック

ガスの平均自由行程は、ガス粒子が他のガス粒子にぶつかるまでの長さなので、

\[\lambda_{\rm mfp} = \frac{1}{n \sigma_{mol}}\]

ここで、\(n=10^{12}{\rm~cm^{-3}}\)\(\sigma_{mol}= 2\times10^{-15}{\rm~cm^2}\)とおくと

\[\nu_m \sim 2.5 \times 10^7 {\rm [cm^2~s^{-1}]}\]

円盤のグローバルな粘性

第4回で(たぶん)やったとおり、降着円盤においてガス降着に必要な粘性は分子粘性では足りず、円盤のスケールハイト\(h\)と音速\(c_s\)を用いて、無次元量\(\alpha\)を導入し、

\[\nu_m= \alpha h c_s\]

と記述することになっている。ここで、\(\alpha\)はどう分配してもいいのだが、よく使われるのは、長さを\(\sqrt{\alpha}h\)、速度を\(\sqrt{\alpha}c_s\)とする記述である。特にガスの乱流速度を \(\sqrt{\alpha}c_s\) と記述するのは今後も出てくるので覚えておいてほしい。

ガスの鉛直構造

ここはスケールハイトの概念さえわかれば良しとする。スケールハイトは

\[h = \frac{c_s}{\Omega_{\rm K}}\]

で、これを用いてガス円盤の鉛直構造は

\[\rho_{\rm gas} = \frac{\Sigma_{\rm gas} }{\sqrt{2\pi}h}\exp \left(-\frac{z^2}{2h^2}\right)\]

と表される。

上記にピンとこなかったら下をクリックして導出を確認しておく (まだ書いてない)

ガスの動径構造

ダストに働く力学

ダスト粒子の基礎方程式

原始惑星系円盤内のガスとダストを2流体と捉えて基礎方程式を考えてみよう。まずガスについては、先程のナビエ・ストークス方程式において、外力\(F\)をダストからの力だと思うと、

\[\frac{\partial \boldsymbol{v}_{g}}{\partial t} + (\boldsymbol{v}_{g} \cdot \nabla)\boldsymbol{v}_{g} = \frac{1}{\rho_{g}}\nabla p + \frac{\mu}{\rho_{g}}\nabla^2\boldsymbol{v}_{g} +\boldsymbol{F}_{\rm drag}\]

とかけそうな気がしてくる。ここでは、粘性は一旦無視しよう。また、ガス・ダスト相互作用は、ガスとダストの速度差があったときにそれを打ち消すように働くと思うので、

\[\frac{\partial \boldsymbol{v}_{g}}{\partial t} + (\boldsymbol{v}_{g} \cdot \nabla)\boldsymbol{v}_{g} = \frac{1}{\rho_{g}}\nabla p - \frac{1}{t_s}(\boldsymbol{v}_{g} -\boldsymbol{v}_{d})\]

ここで、ガスダスト相互作用のタームでは、ガスダスト速度差に\((\boldsymbol{v}_{g} -\boldsymbol{v}_{d})\)比例して、ガスを減速させるようにマイナスを付けた。係数は1/(時間)くらいなので、ガスダスト速度差があるときにダストがガスと同速度に落ち着くまでにかかる制動時間\(t_s\)を導入した。

ダストについても対称に運動方程式を作ればいい。ただし、ダストは無衝突系で、圧力勾配力を感じない。そのため、圧力項は無視して

\[\frac{\partial \boldsymbol{v}_{d}}{\partial t} + (\boldsymbol{v}_{d} \cdot \nabla)\boldsymbol{v}_{d} = - \frac{1}{t_s}(\boldsymbol{v}_{d} -\boldsymbol{v}_{g})\]

ガス抵抗 - Epstein 則

ここで、ダストの制動時間を導出しよう。 まず、ダストに対してガスが粒子的にふるまうときのガス抵抗則を導く。 もし考えるスケールがガスの平均自由行程より大きいと、ガス同士が衝突してしまう。すなわち、ダストの大きさがガスの平均自由行程より小さいときに有効な法則である。 円盤の場合はおおよそ多くの場合でこのエプスタイン則でいい。

とあるダスト粒子が多数のガス粒子の中に置かれたとしよう。ダスト粒子はガスに対して速度\(v\)で動いているとする。 このとき、のガスとダストの運動量のやり取りを考える。 ダスト前面からぶつかるガス粒子の単位時間あたりの衝突回数(衝突頻度)は

\[f_{\rm front} \sim \pi a^2 (v_{\rm th}+v) \frac{\rho}{\mu m_{\rm H}}\]

一方で、ダスト後面からぶつかるガス粒子の衝突頻度は

\[f_{\rm back} \sim \pi a^2 (v_{\rm th}-v) \frac{\rho}{\mu m_{\rm H}}\]

ここで大事だったのは、ガスに対するダストの相対速度があるため、ダスト前面のほうが後面よりたくさんガス粒子と衝突するが、ガス粒子は常にランダムな速度\(v_{\rm th}\)で動いているので、その速度分が常にプラスにたされることである。

ガス粒子が一度衝突すると、運動量を \(2\mu m_{\rm H}v_{\rm th}\)くらいやり取りするので、ガス抵抗則、すなわち単位時間あたりの運動量のやり取りは、係数を無視して、

\[F_{\rm drag}= - 2\mu m_{\rm H}v_{\rm th} \times f_{\rm front} + 2\mu m_{\rm H}v_{\rm th} \times f_{\rm back}\]
\[F_{\rm drag} \sim - a^2v v_{\rm th}\rho\]

ちゃんと導出すると、

\[{\boldsymbol F}_{\rm drag} \sim - \frac{4\pi}{3}\rho_{g} a^2 v_{\rm th}v\]

ダスト制動時間\(t_s\)は運動量mvの粒子をdrag forceで止めるまでの時間、すなわち\(t_s=mv/F_{\rm drag}\)だったことを思い出すと、ダスト粒子質量は\(m=(4/3)\pi a^3 \rho_{\rm int}\)なので、

\[t_s=\frac{\rho_{\mathrm{int}} a}{\rho_{\mathrm{gas}} v_{\mathrm{th}}}\]

と導出される。

Epstein則はガスの平均自由行よりダストサイズが小さいときに有効ですが、原始惑星系円盤のガスの平均自由行程は典型的にどのくらいの値でしょうか。

まだ書いてない。

熱速度\(v_{\rm th}\)と音速\(c_s\)の違いはなんでしょう?

期待が熱力学的平衡状態にあるとき、その分布関数はマクスウェル分布に従う(マクスウェルボルツマン分布という人もいる)。 このとき、分布関数は

\[f(\boldsymbol{u})=n \left(\frac{m}{2\pi k_{\rm B}T}\right)^{3/2} \exp\left( - \frac{\boldsymbol{u}^2}{2k_{\rm B}T}\right)\]

と表される。このとき、平均速度\(<u>=\int u f(u)du\)を導出すると、平均速度、すなわち熱速度

\[v_{\rm th}=\sqrt{\frac{8k_{\rm B}T}{\pi m_g}}\]

が導出される。\(m_g\)はガス粒子の質量で、平均分子量\(\mu\)としたときに\(\mu m_{\rm H}\)と表される。太陽系の組成を考慮すると平均分子量は \(\mu=2.34\)程度。

一方で、音速とは音波が伝わる速度である。圧力の変動が密度の変動に伝わるときの係数を

\[p=c_s \rho\]

としたとき、この係数が、

\[c_s = \sqrt{\frac{k_{\rm B}T}{ m_g}}\]

と表される。そのため、音速と熱速度はファクター倍のズレがある。

ガス抵抗 - Stokes 則

ガスが流体的に振る舞うときのダストのガス抵抗則。係数を無視して導出をしてみる。 ナビエ・ストークス方程式の粘性項を思い出しながら、速度シアがあったときに物体に掛かる力を考えよう。 二次元平面において、速度\(v_x\)の流れ場があり、更に速度はyの関数であるとしよう。\(v_x=v_x(y)\)。 このようなシアがあるときに、せん断応力は歪みに比例するので、速度シアを考えたときのシアストレス(せん断応力は)

\[T_{x}=\mu_{\rm mol} \left|\frac{dv_x(y)}{dy}\right|\]

ここで比例定数\(\mu_{\rm mol}\)は分子粘性を考えている(円盤全体のような大きなスケールでは分子粘性は降着を説明するのに足りなかったが、ここではダストのような\(\sim \mu\)mから\(\sim m\)くらいのスケールを考えているので分子粘性を考えれば良い)。

せん断力\(F\)とすると、断面積\(\pi a^2\)の物体にかかるせん断応力は\(T_{x}= \frac{F}{\pi a^2}\)とかけそうなので、

\[F=\pi a^2\mu_{\rm mol} \left|\frac{dv_x(y)}{dy}\right|\sim a^2 \mu_{\rm mol} \frac{v}{a} \sim \mu_{\rm mol} a v\]

ここで、\(a\)はダストの大きさ、\(v\)はガスとダストの相対速度である。

一応分子粘性係数を思い出しておこう。粘性係数は動粘性\(\nu_m\)に対して\(\nu_m=\mu_{\rm mol}/\rho_{\rm gas}\)だった。動粘性は長さと速度の次元を持っていた。分子粘性の場合は長さは平均自由行程、速度は音速で\(\nu_m\sim \lambda_{\rm mfp}c_s\)。すなわち

\[\mu_{\rm mol}\sim\rho \lambda_{\rm mfp}c_s\]

最後に、stopping timeの形にしておこう。stopping timeはダスト制動時間、すなわち運動量\(mv\)をもつダストが力\(F\)で減速するのにかかる時間なので

\[t_{s}=\frac{mv}{F}\sim\frac{mv}{\mu_{\rm mol} a v}\]

\(v\)を約分しつつ\(\mu_{\rm mol}\)を代入すると

\[t_{\rm s,Stokes}\sim\frac{m}{\rho_{\rm gas}\lambda_{\rm mfp}c_s a}\]

Epstein則の式と比べやすくするために、ダストの質量\(m\)を半径\(a\)と内部密度\(\rho_{\rm int}\)\(m\sim\rho_{\rm int}a^3\)で表し整理すると、

\[t_{\rm s,Stokes}\sim\frac{\rho_{\rm int}a}{\rho_{\rm gas}c_s} \frac{a}{\lambda_{\rm mfp}}\]

つまり、

\[t_{\rm s,Stokes}\sim t_{\rm s,Epstein} \frac{a}{\lambda_{\rm mfp}}\]

と、エプスタイン則に比べて\(\frac{a}{\lambda_{\rm mfp}}\)倍だけ長い時間がかかることがわかった。

参考:辰馬ノート2017(PDF)

このダスト抵抗則の遷移はそれなりに面白い結論があるので、このページの下の方で、growth timescaleの導出を見てほしい。

円盤内のダストの運動

動径方向

鉛直方向

  • ダストスケールハイト
\[\frac{h_d}{h_g}= \sqrt{\frac{\alpha}{{\rm St}}+1}\]

原始惑星系円盤におけるダストの力学の基礎

ダストの動径方向の運動方程式と角運動量保存則は

\[\frac{\mathrm{d} v_r}{\mathrm{~d} t}=\frac{v_\phi^2}{r}-\Omega_{\mathrm{K}}^2 r-\frac{1}{t_{\mathrm{s}}}\left(v_r-v_{r, \mathrm{gas}}\right)\]
\[\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} t}\left(r v_\phi\right)=-\frac{r}{t_{\mathrm{s}}}\left(v_\phi-v_{\phi, \mathrm{gas}}\right)\]

方位角方向の速度はケプラー速度に近いため

\[\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} t}\left(r v_\phi\right) \simeq v_r \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} r}\left(r v_K\right)=\frac{1}{2} v_r v_K\]

と近似し、

\[v_\phi-v_{\phi, \text { gas }} \simeq-\frac{1}{2} \frac{t_{\mathrm{s}} v_r v_K}{r}=-\frac{1}{2} \mathrm{St} v_r\]

を得る。すると、ダストの動径方向の移動速度は

\[v_r \approx \frac{-\eta v_K+\mathrm{St}^{-1} v_{r, \mathrm{gas}}}{\mathrm{St}+\mathrm{St}^{-1}}\]

doi2022Fig2.7 *土井修士論文(2022)より転載

ダスト成長の見積もり

ここで、ダストの成長のタイムスケールを適当な仮定を置きながら見積もってみよう。ダストが成長するのにかかる時間を知っておけば、例えば原始惑星系円盤の寿命と比べることでダストが十分に成長する時間があるかどうかを判定できる。あるいは、ダスト落下時間と比べてみれば、落下より早く成長できるかが判定できる(これができないからダスト落下問題と呼ばれているわけだが)。

ダスト成長タイムスケールは、

\[(成長のタイムスケール)\sim \frac{(今のダスト質量)}{(ダスト質量の成長速度)}\]

すなわち

\[t_{\rm growth} \sim \frac{m}{\frac{dm}{dt}}\]

くらいだと思える。ダスト質量の成長速度は、衝突頻度とダスト質量、ダスト空間密度を用いて

\[(単位時間あたりのダスト質量の成長速度) \sim (ダストの単位時間あたりの衝突頻度) \times (ダスト1個の質量)\]
\[(単位時間あたりのダスト質量の成長速度) \sim (ダストの衝突速度) \times (ダストの衝突断面積) \times (ダスト1個の質量)\]
\[ \frac{dm}{dt} \sim v_{\rm coll}\times \pi a^2 \times \rho_{\rm d} \]

ダストの衝突速度は多くの要素がありうるが、ここでは後に簡単になるため、試しに円盤乱流に起因するダスト衝突速度を見てみよう。原始惑星系円盤は各種の要因により乱流状態だと思われている。その速度は音速に比例するが、\(\alpha\)粘性降着円盤では、粘性を\(\nu=\alpha h c_s\)とおいていたことを思い出そう。\(\alpha\)を長さと速度それぞれに当分配すると\(\sqrt{\alpha}c_s\)\(\sqrt{\alpha}c_s\)と分配することができる。この仮定は正しくないかもしれないが、現在は広くこの形が受け入れられている。すなわち、円盤のガス乱流速度は\(\sqrt{\alpha}c_s\)程度だと思われている。粘性の\(\alpha\)と区別するために\(\alpha_t\)(tはturbulence)とおいておこう。

さて、とある乱流速度\(\sqrt{\alpha_t}c_s\)を持つガスの中にダストをおいた場合、ダスト同士はどのくらいの速度で衝突するだろうか。ダストとガスのカップリングの強さを示すストークス数\({\rm St}\)を使って考えよう。ダストがものすごく小さいときは、ダストとガスはよくカップルしていて、ダストはガスと完全に同じ動きをするだろう。すると、ダスト同士は相対速度はゼロである。すなわち、\({\rm St}\to 0\)の極限ではダスト相対速度はゼロになりそうだ。一方で、\({\rm St}\)が少し大きくなったダストは、ガスに加速されるも完全にはガスと同じ動きをしないので、周りのダストと衝突する。すなわち、ダスト相対速度は\({\rm St}\)が大きくなれば大きくなってほしい。

…というような思いを持って、Ormel and Cuzzi 2007の理論計算結果を見てみよう。横軸が\({\rm St}\)で縦軸がダスト同士の相対速度である。このときダスト相対速度は\(\sqrt{\rm St}\)に比例することがわかっている。

Ormel and Cuzzi 2007

つまり、ダスト相対速度は

\[ v_{\rm coll} \sim \sqrt{\alpha_t {\rm St}} c_s \]

程度だと思われる。

ここで、\({\rm St}\)の中身をガスやダストのパラメータで記述する。ダストの大きさ\(a\)がガスの平均自由行程\(\lambda_{\rm mfp}\)より十分小さい時、エプスタイン則より\({\rm St}=t_{\rm s}\Omega_{\rm K}\)から、

\[ {\rm St}= \frac{\pi}{2} \frac{a \rho_{\rm mat}}{\Sigma_g}\]

とかける。以上全て代入してダストの成長タイムスケールを求めると

\[ t_{\rm growth} \sim \frac{1}{\sqrt{\alpha_t}} \sqrt{\frac{2}{\pi} \frac{\Sigma_g}{a \rho_{\rm mat}}} \frac{1}{c_s} \times \frac{1}{\pi a^2} \]
\[ t_{\rm growth} \sim (数十) \left(\frac{\Sigma_g/\Sigma_d}{100.0}\right)^{-1} \times t_{K}\]

個々で重要なのは、成長のタイムスケールはガスダスト比だけで決まるという点である。 ガスダスト比が一定であれば、重たい円盤でも軽い円盤でも成長タイムスケールは変わらない。 一方で、ガスが散逸したり、あるいはダストが濃集した場合は、ダスト成長タイムスケールは大きく変化する。

ダスト落下問題

ダスト落下問題とは、1. 微惑星に成長する前にダストが中心星に落ちてしまう問題と2.ダスト落下時間が早すぎて、100万年以上の年齢を持つおおくのダスト円盤を説明できないこと、である。

Birnstiel et al. 2009

ストークス則を利用したダスト落下問題の回避

衝突破壊速度とダストサイズの関係性

衝突速度が\(\sqrt{\alpha_t {\rm St}} c_s\) とかけているとき、この衝突速度が最大となるときのダストサイズはどのような場合だろうか?

\[a_{\rm max}=\frac{2\Sigma_g}{\pi \alpha \rho_{mat}} \frac{u_f^2}{c_s^2}\]

(Birnstiel et al. 2009)

原始惑星系円盤におけるダスト衝突速度

Brauer2008Fig3

原始惑星系円盤の観測によるダストサイズ制限

スペクトル

Kataoka et al. 2014

ダストサイズとopacityの関係。ミリ波においては、大きいダストほど波長に対して急激にopacityが下がる。すなわち、スペクトルの傾きの情報から出すとサイズに制限がつく。

Tazzari et al. 2021

いくつかの原始惑星系円盤の波長0.9 mm-3.1mmの間でのスペクトルを示したもの。

偏光

Kataoka et al. 2015

偏光観測がダスト散乱による場合、多波長偏光観測によってダストサイズが直接制限されることを示した論文。

力学的制限

Doi and Kataoka 2021

幾何学的な効果を見ることで、ダストのスケールハイトから\(\alpha/St\)(すなわち、乱流の強さとダストの大きさの比)を求めた論文。

応用問題 (研究の話)

Streaming instability

Carrrera2015Fig8

空隙ダストアグリゲイトの話

Kataoka et al. 2013b