口頭講演


2013年8月19日(月)
名前(所属)タイトル・アブストラクト
深川 美里 (大阪大学)【レビュー】原始惑星系円盤の高解像度観測
赤外線・電波観測における感度や解像度の向上により、原始惑星系円盤の観測的知見は継続的に塗り替えられている。一方で、個々の円盤の現実的な物理・化学状態を理解する、あるいは統計的考察からそれらの一般化を図るには、データとその適切な解釈の、一層の積み重ねが必要である。講演ではまず、遷移円盤を持つ Herbig Fe型星 HD 142527 の ALMA 観測(340 GHz帯、解像度約60 AU)の結果を紹介する。この観測で注目すべき点は、ダスト連続波で見られた方位角方向の顕著な非対称性と、星から約160 AUも離れた場所で検出された、非常に高い放射輝度である。この輝度最大の領域について、分子輝線から得られた温度情報を用いて面密度を見積もると、自己重力不安定、あるいはダストの凝集による惑星形成が進行している可能性のあることが分かった。講演では続けて、円盤密度の見積もりの不定性など、これら ALMA の初期観測の解析を通じて再認識できる課題や、円盤内での惑星検出といった円盤進化に関連する話題を幾つか取り上げ、これまでの観測や今後の見通しを概観・議論する。
眞山 聡 (総研大)Protoplanetary disk searches by SEEDS(Subaru Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with HiCIAO/AO188)
Since its initiation in October 2009, Subaru Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with HiCIAO/AO188 (SEEDS) has been conducted a multi-year survey that uses the Subaru Telescope in an effort to directly image extrasolar planets and protoplanetary/debris disks around several hundred nearby stars. Near-infrared imaging is carried out using the AO188 Adaptive Optics System and HiCIAO high-contrast imaging instrument.
Young Stellar Objects(YSO), one of the category in SEEDS project, is composed of 7 subcategories including Taurus, Upper Scorpius, Oph, Lupus, R CrA, Binary, and Massive stars. YSO category has conducted observations towards protoplanetary disks and transitional disks to investigate how the outer disk structure is related to mass, evolutionary stage and also disk signatures. We report the results of our SEEDS disk surveys conducted since 2009.
本田 充彦 (神奈川大学)Herbig Be型星 HD100546 原始惑星系円盤表層における水氷分布観測
若い中質量星である Herbig Be 型星 HD100546 周りに存在する原始惑星系円盤を Gemini South 望遠鏡に搭載された近赤外コロナグラフカメラ NICI を用いてK(2.2um), H2O ice (3.1um), L'(3.8um) の3色で直接撮像観測を行った。3波長での観測から、円盤表面からの散乱光スペクトル中に3.1um吸収バンドを検出した。しかし、吸収の深さが先行研究のHD142527(Honda et al. 2009)よりも浅いことが分かった。この解釈として、円盤表層において水氷ダストの光脱離が効いている可能性がある。
Oka et al. 2012 のモデル計算によると、A/B型星星周の円盤表層ではUVによる光脱離により水氷ダストが非常に短いタイムスケールで消失すると予想されている。HD100546はB9.5Ve型星であるので、光脱離が効果的に働き円盤表層において水氷ダストが減少し、氷吸収バンドが浅くなっている可能性がある。
武藤 恭之 (工学院大学)【レビュー】原始惑星系円盤における力学過程と円盤直接撮像観測
 原始惑星系円盤は、惑星形成の現場として理論的・観測的な側面から活発に研究されている。本講演では、原始惑星系円盤における力学的な過程を中心に講演する予定である。具体的には、原始惑星系円盤における円盤と惑星の相互作用についての基本的な事柄をレビューしたうえで、現在何がどこまでわかっているのかということをまとめる。
さらに、原始惑星系円盤の直接撮像観測から、どのようなことがわかるのかということについても議論する。たとえば、円盤内に惑星が作る構造はどの程度観測可能であるのかということを議論したい。また逆に、ある構造が見えた場合に、そこから原始惑星系円盤についてどのようなことを知ることができるのかということについても議論したい。
また、時間が許せば、将来の原始惑星円盤の観測によってどのようなことが明らかにできるのかということについても言及したい。
高橋 実道 (京都大学/名古屋大学)原始惑星系円盤中のリング構造形成過程
近年、すばる望遠鏡の SEEDS プロジェクトなどにより、原始惑星系円盤に形成されているリング構造が観測されている。このような構造は、円盤の進化や円盤中での惑星形成を理解する上で鍵となると考えられ ており、注目を集めている。しかし、これらのリング構造の起源は未だに明らかになっておらず、これらの観測を説明する理論的研究の進展が急務となっている。観測されたリング構造の起源の候補として、viscus overstability による軸対称な不安定モードが考えられる。粘性ガス円盤の線形解析から、原始惑星系円盤において 105 年程度で軸対称モードが成長することが示唆されている。しかし、この解析は定常な円盤での局所的な不安定の成長を解析しており、非線形段階においてこの不安定がどのように振る舞うかについては未だ明らかではない。そこで、本研究では粘性円盤の一次元流体計算を行った。そして、原始惑星系円盤での 不安定性の成長を非線形段階まで計算した。その結果、波は非線形段階でも成長し、面密度は数倍程度まで大きくなることが分かった。この数値計算の結果から、円盤に観測されている構造がこの不安定性によって形成されていた場合、密度構造が周期的に変化することが示唆される。
花輪 知幸 (千葉大学)原始惑星系円盤の振動
 多色輻射輸送シミュレーションにより、星からの照射が主となる原始惑星系円盤では鉛直方向の振動が励起されることを示す。この振動の特徴は、中央面近くと上空で膨張と収縮の位相が異なることである。上空が膨張して円盤が暖められているとき、中央面付近は収縮して密度・圧力が上昇する。反対に上空が収縮しているとき、中央面付近は膨張して圧力が下がっている。収縮したときにより暖められ、膨張したときには加熱が弱いため、振動は励起される。
 この振動の周期はケプラー周期の約半分で、熱的時間尺度が長い円盤では10周期ほどで振幅が増大する。講演ではこの振動励起機構および、振動が円盤の見え方や進化に及ぼす影響を論じる。

2013年8月20日(火)
名前(所属)タイトル・アブストラクト
高桑 繁久 (台湾中央研究院)【レビュー】Observational signature of Envelope Evolution toward the Keplerian-Disk Formation around Low-Mass Protostars
In this talk I will give a review on the latest progress of study of Keplerian-disk formation around protostellar sources. This talk consists of two parts. One is on the ubiquity of Keplerian disks around Class I protostars, such as L1551 NE, L1527 IRS, and L1489 IRS. The second part is our SMA survey of low-mass protostellar envelopes, which aim to reveal the evolution of protostellar envelopes into Keplerian disks. From our SMA survey, we found that two Class 0 sources, B335 and NGC 1333 IRAS 4B, show no detectable rotational motion, while L1527 IRS (Class 0/I) and L1448-mm (Class 0) exhibit rotational motions with radial profiles of vrot ~r-1. More evolved Class I sources, TMC-1A and L1489 IRS, exhibit the fastest rotational motions among the sample, and their rotational motion have flatter radial profiles of vrot ~r-0.5. The rotational motions with the radial dependence of r-1 can be interpreted as rotation with a conserved angular momentum in a dynamically infalling envelope, while those with the radial dependence of r-0.5 can be interpreted as Keplerian rotation. These observational results demonstrate categorization of rotational motions from infalling envelopes to Keplerian-disk formation. We will also show our simple toy model to interpret the evolutionary sequence of the protostellar envelopes into Keplerian-disk formation.
大橋 永芳 (国立天文台)ALMAを用いた原始星周囲のケプラー円盤の観測:L1527のケース
原始星の周囲にはケプラー回転する円盤が、星形成の副産物として形成されると考えられている。このケプラー円盤は原始惑星系円盤とも呼ばれ、惑星系形成の現場として注目され続けているが、その形成過程は良く理解されていないのが現状である。星形成過程の中でどのようにケプラー円盤が形成されるかを調べる目的で、代表的な原始星L1527 IRSをALMA Cycle 0にてC18O (J=2-1)、 SO (J,N=6,5-5,4)、1.3 mm連続波で観測したので報告する。C18Oでは過去の観測でも知られていたように、南北に伸びた半径400AU程度のエンベロープが観測された。中心星方向では明るい連続波を背景とした非常に強い赤方偏移した吸収が見られ、エンベロープが原始星に向かってインフォールしていることが非常に強く示唆される。南北方向には回転による顕著な速度勾配が見られる。その回転則を詳細に調べたところ、回転半径60AU程度のところまではほぼ半径に反比例する形で回転速度が増加する事が分かった。これは、エンベロープ中の物質が比角速度を保ちながら自由落下しているという描像で矛盾無く説明できる。60 AUよりも内側では、回転則が1/rよりも緩やかになっている兆候が見られ、そこでケプラー円盤が形成されている可能性が示唆される。一方、SOはC18Oエンベロープよりもよりコンパクトな構造を示す。C18O同様にSOも南北に回転による顕著な速度勾配を示すが、その回転則は剛体的で、差動回転を示すC18Oとは大きく異なる。剛体的な回転はSOがリング状に分布して回転していると考えると自然に説明できる。
講演では過去の野辺山ミリ波干渉計やサブミリ波干渉計の結果も振り返りながら、ALMAを用いた原始星周囲のケプラー円盤の観測の意義について考える。
麻生 有佑 (東京大学)The formation of a Keplerian disk around a late-stage protostar
星形成初期にあたる原始星段階では動的降着 (インフォール) するエンベロープが特徴的であるが、進化するにつれてインフォールは弱まり、ケプラー回転が支配的となる古典的 T タウリ型星 (CTTS) 段階へと至る。惑星系形成の現場としても注目される原始惑星系円盤はこの両者の間の進化段階で形成されると考えられているが、その形成過程は良く理解されていないのが現状である。そこで、どのようにケプラー円盤が形成されるかを調べる目的で、原始星の中でも特に後期段階 (Class I, Tbol=118 K) にあり、CTTS 段階へと向かいつつある TMC-1Aを ALMA Cycle 0 にてC18O (J=2-1)、SO (J,N=6,5-5,4)、1.3 mm連続波で観測したので報告する。過去 の観測から TMC-1A の周囲にはケプラー円盤が同定されており、ALMA 観測で得られた回転則も概ねこれに一致している。そこから計算されるj=1.7×10^(-3) pc km/sはClass0の典型値よりも大きく、原始星後期段階ではエンベロープから円盤へより大きな角運動量が持ち込まれていることを示唆する。しかし一方で、円盤の短軸方向にも顕著な速度勾配が見られ、中高速度(ΔV>1 km/s)では速度ごとに決まる放射のピーク位置はS字を描いている。TMC1Aではこれらインフォールと解釈できる成分も検出され (dM/dt = 1.9×10^(-6) Msun/yr)、原始星後期段階でもインフォールが依然と継続していることが分かった。一方、SO は C18O よりもコンパクトな構造 を示している。また、高速度(ΔV=2-3 km/s)ではC18Oと良く一致する速度構造を示すが、低速度では剛体的な回転則を示し、低速度でも差動回転を示すC18Oとは大きく異なる。
町田 正博 (九州大学)【レビュー】星周円盤の形成過程
近年、計算機の発展により星・惑星形成の母体である分子雲コアから星周円盤が形成し進化する過程を直接数値シミュレーションで計算できるようになった。従来、星周円盤(原始惑星系円盤)は、分子雲コアが持つ角運動量によって必然的に形成すると考えられていた。しかし、最近の現実的な数値計算は、円盤が持つ角運動量が磁気制動という効果によって過剰に外層に輸送されてしまうことを示している。これは、円盤形成が今まで考えられていたように単純ではなく、磁場による角運動量輸送や磁場の散逸などが円盤の進化に重要な役割を果たすことを意味している。そのため、惑星形成の初期条件である原始惑星系円盤の性質を理解するためには、磁場やその散逸、また輻射を考慮した数値シミュレーションを実行する必要がある。この発表では、星周円盤形成の最近の現状をレビューし、その後、現在考えられている円盤形成シナリオについて述べる。
塚本 裕介 (名古屋大学)円盤分裂によって形成したクランプの性質
星周円盤が自己重力不安定によって分裂する過程は近年の直接撮像で発見された遠方惑星系の形成過程の有力な候補である。円盤の分裂過程はこれまでに多くの理論研究がなされてきているが、分裂によって形成するクランプの軌道進化、内部熱進化はいまだに未解明な点が多く残されている。例えば、クランプは形成当初は半径数AU程度の広がった構造を持つが、時間とともに内部温度が上昇し中心温度が2000K程度に達すると中心で水素のかい離反応が起こり太陽半径程度まで急速に収縮すると考えられている。この収縮(セカンドコラプス)が起こる以前と以後ではクランプに働く潮汐の効果がや光度が大きく変化するため、セカンドコラプスまでの時間スケールを明らかにすることは極めて重要である。そこで我々は3次元輻射流体力学シミュレーションを用いて、円盤分裂によって 形成したクランプの軌道進化および内部進化を調べた。その結果、クランプの構造は中心温度、$T_c\sim 100$ Kの時は$n=3$、$T_c>100$ Kの時は$n>4$のポリトロープ球でよく近似できることがわかった。形成後、クランプのエントロピーは増大しており、クランプは(輻射冷却ではなく)円盤からの質量降着によって進化することを示唆している。また、セカンドコラプスまでの時間は1000-2000年程度であった。クランプには最大質量が存在し$0.03 M_\odot$程度を超えるとセカンドコラプスを起こすことが理論、およびシミュレーションによって示された。このセカンドコラプスが起きるときクランプの光度は急激に上昇し十太陽光度が100年程度持続すると推定される。
本講演では以上の結果を紹介するとともに、それらの遠方惑星形成過程への解釈を議論する。
富田 賢吾 (Princeton University)MHD Simulations of Star-Disk Interaction
In the final phase of the star formation processes, gas accretes through circumstellar disks onto protostars, and the disk and the protostar interact each other via magnetic fields in the innermost region. The structure of the accretion flow in this region is determined by the strength of the stellar magnetic fields and the accretion rate, which depends on angular momentum transport by turbulence driven by the Magneto-Rotational Instability (MRI). Therefore, high resolution MHD simulations are required to study the structure of the accretion flow.
For this purpose, we have extended Athena MHD simulation code (Stone et al. 2008) by implementing a new MHD solver for spherical polar coordinates. Our new solver is consistent with the concept of the finite volume method. The new code has an excellent parallel performance, which scales very well with more than 10,000 CPU cores. With this code, we performed MHD simulations similar to Romanova et al. (2012) with sufficient resolution to resolve MRI within the disk. We successfully simulated the accretion flow which is driven by MRI and flows along the stellar field lines (so-called funnel flow) in the vicinity of the central star.
竹内 拓 (東工大)原始惑星系円盤での大局磁場と面密度の進化
 最近のMHDシミュレーションによると、デッドゾーンを含むような原始惑星系円盤におけるMHD乱流の強さは、円盤を貫く大局磁場の強さで決まる。これは、円盤進化において、円盤を貫く大局磁場の強さが重要であることを示している。
我々は、円盤を貫く磁場形状を記述するもっとも簡単なモデルを用い、静的な磁場形状の性質を明らかにした。円盤を貫く磁束は、無限遠での(星間)磁場強度と円盤半径で決定され、円盤のある半径における磁場強度には上限が存在することがわかった。
 この結果を応用し、円盤の乱流の強さ・質量降着率が、円盤進化とともにどのように進化するかを議論する。円盤進化の初期段階では、円盤外側部分での質量降着率が内側のデッドゾーンより高く、内側部分にガスがたまっていく。進化が進み、外側部分の降着率が小さくなると、逆にデッドゾーンでの降着率が外側部分を上回る。この時は、デッドゾーン領域からガスが失われて行き、穴の開いた円盤が形成される。これまでは、デッドゾーンでは質量降着率が小さくなり、常にガスがたまると考えられてきた。しかし、MHD乱流の大局磁場依存性を考慮すると、特に円盤進化の後期段階には、このような描像はあてはまらない可能性がある。
村主 崇行 (京都大学)原始惑星系円盤内の雷分布
私たちは、原始惑星系円盤の内縁部が観測可能となってきていることを念頭に、原始惑星系円盤の降着メカニズムとしてもっとも有力視されている磁気回転不安定性(MRI)の大局的な飽和状態を理解し、惑星形成過程との相互作用を解明するための研究を進めてきた。
これまでに、原始惑星系円盤内で氷ダストの衝突によって生じる電荷分離を考慮した電荷分布の平衡解をもとめ、それを起因とする雷現象が起こるための条件を導いた。
また、MRIの自己維持と放電現象の相互作用について多数の3次元シミュレーションを行って研究し、MRIの自己維持に関して従来知られていなかった必要条件を提案した。
そこで本発表では、複数の原始惑星系円盤モデルについて、乱流や沈殿由来のダスト分布を仮定し、氷ダスト雷やMRI雷の条件式をあてはめ、雷の分布やイベント頻度を求める。前述の氷ダストの衝突によって生じる雷現象やMRIの自己維持によって生じる雷現象について、その観測可能性まで含めて論じたい。

2013年8月21日(水)
名前(所属)タイトル・アブストラクト
奥住 聡 (東工大)【レビュー】円盤における固体の衝突成長と移動
固体微粒子(ダスト)は惑星の主要な原材料であり、また原始惑星系円盤の光学特性を決定づける存在である。ダストが円盤内でどのように進化するかを明らかにすることは、惑星形成過程の解明、天文観測の解釈の両面において極めて重要である。近年、ダスト粒子の衝突に関する実験・数値シミュレーションが国内外において精力的に進められてきている。その結果、ダスト衝突の多様性とそのパラメータ依存性が、次第にではあるが詳細に明らかになってきた。また、これを受けて、原始惑星系円盤におけるダストの進化理論モデルも急速にアップデートが進んでおり、円盤ダスト進化が従来考えられていたよりもはるかに複雑であることが明らかになってきた。本講演では、原始惑星系円盤におけるダスト進化、特にダスト衝突素過程と円盤中での大局的進化に関する最新の知見を提供する。
片岡 章雅 (国立天文台/総研大)高空隙ダストの静的圧縮を考慮した微惑星形成
 原始惑星系円盤においてミクロンサイズのダストがキロメートルサイズの微惑星に合体成長する過程は未だ理論的に解明されていない。主な問題点として、中心星落下問題 (Adachi et al. 1976)、衝突破壊問題 (Blum & Wurm 2008)、跳ね返り問題 (Zsom et al. 2010) が挙げられる。近年、 衝突合体に伴う氷ダストの高空隙率化を考慮することでこれらの問題を解決することが提案されてきた (Okuzumi et al. 2012)。しかし、このモデルでは形成される微惑星の内部密度が 10−5g/cm3 まで下がってしまい、彗星などが 0.1g/cm3 程度の内部密度を持つことを説明できないことが問題であった。
 我々は、N体計算で求めた空隙ダストの圧縮強度公式 (Kataoka et al. 2013) を用いて、原始惑星系円盤におけるガス圧や自己重力による氷空隙ダストの圧縮過程を調べた。それにより、原始惑星系円盤の各軌道長半径におけるダストから微惑星までの内部密度進化を明らかにした。合体成長によって高空隙率を持ったダストは、ガス圧によって圧縮されながら合体成長する。その際、高空隙率化による中心星落下問題・跳ね返り問題の回避は、静的圧縮を考慮してもなお実現されることが示された。更に高空隙天体が 100m サイズまで成長すると自己重力によって圧縮され始め、最終的に10km サイズまで成長し、彗星やカイパーベルト天体で示唆される内部密度 (∼ 0.1g/cm3) が実現されることが示された。
瀧 哲朗 (東工大)円盤ガスのバンプ構造によるダスト濃集領域の形成と乱流による進化
微惑星の形成問題は惑星系形成論における重要な未解決問題のひとつであり,現在でも様々な切り口から研究が続けられている.微惑星形成を困難にしている要因は大きく分けて2つある.1つは衝突破壊による合体成長の阻害であり,もう1つは成長したダストの中心星落下である.
本研究では,原始惑星系円盤に存在しうると考えられている非一様なガス密度構造(バンプ構造)がダストの落下を止めることに注目し,バンプ領域におけるガスとダストの進化の様子を調べた.
まず,ガス密度に存在する定常なバンプ構造が,ダスト密度を局所的にダスト-ガス比 ~1 程度まで上昇させることを明らかにした.このときバンプ構造はダストからの摩擦によって破壊され,ダストの落下を止めるという効果は失われてしまう.しかし,形成されたダスト濃集領域は,領域外側からの落下による流入と,領域からの流出のバランスによって,存在し続けることが分かった.
次にそのようなバンプ構造が作ったダスト濃集領域においてストリーミング不安定性が成長することを確かめ,実現される最大ダスト密度や落下速度の変化について調べた.また,Johansen & Youdin (2007)などによって示された一様な密度分布から始めた場合のストリーミング不安定性の進化との違いを議論し,微惑星形成シナリオに与える影響について考える.
石津 尚喜 (国立天文台)原始惑星系円盤内ダスト層におけるストリーミング不安定性
原始惑星系円盤では動径方向の圧力勾配のため、ガスはケプラー速度以下で中心星の周りを公転する。一方、ダストはケプラー速度で公転しようとする。 ダストはガスの向かい風を受けてトルクを失い中心星に落下する。ダストとガスの角運動量の交換の結果としてダストは中心星に落下し、ガスは円盤外側へ移動する。このようにダストとガスが異なる速度運動する状況ではストリーミグ不安定性が生じうる。今回は鉛直方向にダストの密度勾配がある場合のストリーミ ング不安定性について考える。本研究ではダストとガスの2流体3次元数値シミュレーションを行い、ストリーミング不安定性によって生じる乱流の解析を行った。
谷川 享行 (北海道大学)原始惑星系円盤から周惑星円盤への固体の供給
巨大ガス惑星の規則衛星は、惑星形成時に存在していたと考えられている周惑星円盤の中で形成されたと考えられている。周惑星円盤については、近年の高解像度数値流体計算により、周惑星円盤のガスの構造についてはかなり詳しく明らかにされている。しかし、衛星の形成に不可欠な固体がどのように周惑星円盤へ降着するかは明らかになっていない。
そこで本研究では、原始惑星系円盤中を回転する固体が周惑星円盤へどのように降着するかを理解するために、惑星軌道付近を中心星周りに回転している粒子が、周囲のガス運動の影響を受けながらどのように降着するかを、ガス抵抗を考慮した軌道計算により調べた。ガス抵抗の計算には3次元高精度数値流体シミュレーションにより得られた流れ場データを用いた。その結果、典型的な原始惑星系円盤モデルで、惑星が5AUにある場合、10mサイズの天体が最も降着効率が高い事が分かった。定性的には10mを境にサイズ小さくなるにつれて天体はガスとよくカップルして周惑星円盤への降着が妨げられ、サイズが大きくなるにつれてガス抵抗の効果が弱まり捕獲効率が下がる事が分かった。この結果を用いて周惑星円盤内における衛星形成プロセスについて議論する予定である。
植田 千秋 (大阪大学)ダスト整列の機構解明に向けた非晶質および結晶粒子の磁場整列実験
原始惑星系円盤の近傍に分布するダストは,赤外emission の観測の結果から,非晶質シリカ,および結晶質のForsterite, Enstatite 等で構成されていると考えられている.したがって,この領域で観測されるダスト整列が磁場によるものか否かを評価する場合,上記シリケート粒子の実効的な磁気異方性が重要となる.最近の研究結果によると微小結晶の磁化率の異方性は,そのサイズの減少と共にバルク結晶の文献値から逸脱する事例が報告されている.従って星周でシリケート粒子が磁場整列するか否かを定量的に評価するには,星周の粒子サイズでの磁気異方性を検出する必要がある.しかし磁気科学で確立している既存の計測法では,mm サイズより小さい試料で弱磁性の異方性を検出することは困難である。私たちは微小重力空間で,sub-mm レベルの粒子結晶の磁気的安定軸を,静磁場によって回転振動させることで異方性を検出する方法を,独自に開発した.この手法を用いて、自然界で産する典型的な非晶質シリケートであるテクタイトで有意の磁気異方性を検出した。これと並行して上記サンプルの電子スピン共鳴測定を実施し、上記の異方性が単一の磁性イオン起源であることを確認した。上記の測定結果に基づいて、ダスト円盤近傍に分布するダストが星周磁場の強度で部分整列する可能性を定量的に評価する。
磁気異方性を計測する標準的な手法であるトルク法では、水平磁場の中に試料をファイバーで吊し、発生した磁気異方性トルクとファイバーのネジレ復元トルクをつり合わせることで,異方性を検出する.この方法による測定感度は,ネジレ復元トルクで限定されてしまう.そこで,上記の回転振動の周期から,微弱な異方性を検出する原理の有効性を実験で検証した.この方法では,ネジレ復元力の影響なしに,また,試料の質量計測をすることなく異方性が得られる[1].また観測装置全体を小型box 内に収納する必要があるが,これは小型のネオジム磁石プレート2 枚からなる磁気回路を新たに製作することで,磁場発生部を従来のφ 40cm からφ 5cm 以下に縮小することで実現した.今回,sub-mm 粒子の異方性を観測する技術が確立したことで,今後ミクロンサイズあるいはそれ以下のサイズの粒子の異方性を計測する展望が得られた.今後,測定可能な試料サイズを減少させることで、ダストサイズにおける実効的な異方性が得られると期待される.
[1] C.Uyeda et al: Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79, 064709 (2010).
野村 英子 (京都大学)【レビュー】原始惑星系円盤の分子輝線観測と化学モデル
近年の観測技術の進展により、赤外線・ミリ波サブミリ波領域で原始惑星系円盤から様々な分子輝線が観測されるようになった。これらの観測から円盤ガスの物理量を導く上で、化学構造の理解は不可欠である。円盤内では、ダストの合体成長・赤道面への沈殿や、乱流に起因する中心星へのガス降着、円盤風や光蒸発などによるガス散逸といった過程を経て惑星系が形成されると考えられているが、これらの過程は円盤の化学構造および分子輝線に影響を及ぼす。一方で円盤内の化学進化は、太陽系内物質起源を探る上でも重要である。最近では、ダスト表面反応による複雑な有機分子の形成に関する研究も進んでおり、太陽系内物質との関連が議論されている。本講演では、スピッツァー、ハーシェル宇宙望遠鏡による赤外線分子輝線観測や最近のSMAやPdBI、また、ALMAによるミリ波サブミリ波分子輝線観測について、さらに円盤内の諸物理過程や複雑な化学反応を取り入れた最近の円盤化学モデルについてレビューする。
坂井 南美 (東京大学)原始星円盤形成に伴う化学変化

2013年8月22日(木)
名前(所属)タイトル・アブストラクト
秋山 永治 (国立天文台)【レビュー】電波観測で見る原始惑星系円盤の構造と進化
世界最大の電波干渉計ALMAや最大口径を有する光赤外望遠鏡TMTが到来する時代にあたって、星・惑星系形成の研究は黄金時代を迎えつつあり、惑星系形成の母体となる原始惑星系円盤のガス及びダスト成分の物理的・化学的構造を1AU以下から1000AUに渡って詳しく調べる事ができる時代となってきた。本レビューではこれまでの星・惑星系形成の歴史的背景を俯瞰する。次に最近注目され円盤進化を解明する上で新たなかぎとされるClassIIからIIIにかけてのprimordial、tansitional、debris diskについて、ALMAを初めとする最新の装置を用いたミリ波サブミリ波の観測結果を紹介する。そして理論シミュレーションから原始惑星と母体円盤との相互作用で形成されると予想されるgap、hole、spiral arm、asymmetric structureなどの円盤の複雑な幾何学的構造と観測で得られている最新の結果を比較し、円盤の進化について考察する。最後に今後のALMAの科学仕様と観測動向について紹介する。
塚越 崇 (茨城大学)遷移段階円盤Sz91のサブミリ波および近赤外線を用いた高分解能観測
 原始惑星系円盤のうち、近・中間赤外波長域にギャップのあるSEDを持つ遷移段階円盤は、惑星系形成に伴う穴構造を持つような重要天体であると考えられている。電波干渉計等を用いた高分解能観測によって、実際に内側に大きな穴の空いた円盤がいくつか検出されているが、サンプル数はまだ少なく穴構造の大きさや円盤質量の相関性についてもよく分かっていない為、今後もサンプルを増やしていく必要がある。おおかみ座分子雲に存在するClass III Tタウリ型星のSz91も、そのような遷移段階円盤候補天体であり、我々の過去の1.1mm連続波サーベイによっておよそ10$^{-3}$ $M_¥odot$に相当する円盤を持っている事がわかっている。これまで観測されてきた遷移段階円盤の中では最も軽い円盤であり、遷移段階円盤、しいては惑星系形成過程を探る上で重要な天体である。この天体に対し我々は、Sz91に付随する円盤構造を空間分解する目的で、Submillimeter Arrayおよびすばる望遠鏡を用いた高分解能イメージング観測(0.2"~1")を行ってきた。観測の結果、Sz91のダスト円盤は半径170AUの大きさを持ち、SEDから示唆される大きい穴構造(内径65AU)が存在する事が明らかになった。また半径420AUに広がる円盤ガス成分も付随している事が分かった。明らかになった空間分布を用いてSEDモデリングを行ったところ、Sz91のSEDは、冷たい外側円盤と内側のホットダスト(hot component)を組み合わせたモデルで再現出来る事が分かった。見積もられた外側円盤の質量は2.4x10^{-3} Msunであり、近傍星形成領域の他classIII天体と比べて十分に重く、またこれまで観測された遷移段階円盤の中では最も軽い円盤の一つである。hot componentはおおよそ180Kの単一温度graybodyで再現出来る。この構造は我々の観測では分解出来ないものの、周惑星系円盤のような局所的に存在するself-luminousな放射体か、天体から2AUの位置にあるリング構造で解釈する事が出来る。
金川 和弘 (北海道大学)巨大惑星による円盤ギャップの形成: 円盤回転則の変化とレイリー条件を考慮した定常ギャップ構造
原始惑星系円盤で十分に成長した惑星は、円盤との重力相互作用によって周囲のガスを吹き飛ばし、惑星軌道に 沿ってリング状のガス密度が減少した領域(ギャップ) を 作る。このようなギャップの形成は、最近の観測によって発見されている、インナーホールを持つ「遷移円盤」やリング状の隙間を持つ「前遷 移円盤」の形成にとって非常に重要な過程だと考えられている。
我々は、一次元粘性円盤モデルを用いて円盤ギャップの定常面密度構造について詳細に調べた。我々のモデルで は、従来のギャップ形成モデルでは無視されてきた動径方向のガス圧力勾配による円盤回転則の変化を取り入れ、円盤構造の安定条件であるレ イリー条件を考慮した。円盤が受け取る惑星トルクの分布は理論的に不定性が大きいため有力なモデルはない。そのため、本研究では、さまざ まなトルク分布に対しギャップの構造がどのように変わるかを調べた。従来、ギャップの深さは惑星が円盤に与える角運動量の総量によって決 まっていると考えられてきたが、木星サイズの惑星の場合は、レイリー条件によって面密度勾配の増加が制限されるため、トルクの分布によっ てもギャップの深さが大きく変わることが分かった。例えば、惑星が円盤に与えるトルクが同じでも、トルクが一カ所に局在した分布をとった 場合、トルクが広範囲に広がった分布をとった場合より、ギャップは大幅に浅くなる。実際、2次元流体計算はこのような局在したトルク分布 を示唆している。今後、円盤が受け取る惑星トルクの分布をより詳細に調べる必要がある。
前島 直彦 (名古屋大学)中心星加熱円盤における惑星のタイプI軌道移動の数値計算と解析的見積もり
惑星は原始惑星系円盤の中で形成され, 円盤ガスとの重力的相互作用により動径方向に移動する. そのうち低質量惑星についておこる「タイプI軌道移動」は, 等温的な円盤では移動速度が大きく惑星は短時間で中心星へ落下してしまうという問題があった. ところが最近の研究では, 断熱過程を考慮し た円盤ではエントロピーの勾配が負の場所で惑星は外向きにも移動できることが分かっている(Paardekooper & Mellema 2006; Baruteau & Masset 2008; Paardekooper & Papaloizou 2008). 非等温円盤におけるタイプI軌道移動の数値計算を行った研究があるが(Lyra et al. 2010), 彼らの研究では中心星放射による円盤の加熱を考慮していない.本研究では, 中心星放射によって加熱される非等温円盤において惑星はタイプI軌道移動によってどのように軌道を変化させるかを数値計算によって求めた. 円盤加熱機構として粘性加熱と中心星放射の両方を考慮した. 円盤内には惑星に働くトルクがゼロになる「平衡半径」ができ, 惑星は平衡半径とともに円盤進化タイムスケールで中心星方向へ移動する. 数値計算により, 円盤加熱の主体が粘性加熱から中心星放射に遷移する領域に平衡半径が1つでき, それに追従する10ME惑星の到達位置は約1AUになるという結果が得られた. 円盤進化に関わるパラメータを変えた計算を行っても, それらのパラメータに対する依存性はあまり強くなく, この結果はあまり変わらない. そのため, 等温過程を想定した円盤における「惑星落下問題」が回避できると思われる. また, 平衡半径のできる位置や惑星到達位置を解析的に求められた値と比較すると, 良い一致が見られた.
小野 智弘 (京都大学)円盤の大質量星への接近が惑星移動へ与える影響
原始惑星は原始惑星系円盤内のガスと重力相互作用を起こし、移動すると考えられている。円盤ガスは時間と共に散逸するが、その散逸過程は惑星形成・移動を考える上で重要である。散逸の主たる要因としてガスの粘性降着と中心星からの紫外線照射による光蒸発が考えられている。また、恒星の多くは星団内で生まれ、星団内には大質量星が存在しうることから、大質量星に円盤が接近した時、大質量星からの紫外線照射による光蒸発も考える必要がある。我々は大質量星への接近が円盤内のガス散逸と惑星移動へ及ぼす影響について調べた。結果として、大質量星へ0.1 pcまで接近した時、円盤ガスが0.1Myrのタイムスケールで散逸し、惑星移動は止まることが分かった。これは大質量星への接近が起こると惑星が中心星からより離れた場所に存在しやすくなることを意味している。
安井 千香子 (東京大学)銀河系内縁部における中質量星の原始惑星系円盤の寿命
原始惑星系円盤の寿命は、惑星形成過程に直接影響を及ぼす最も重要な基本量のひとつである。円盤の寿命は、これまで太陽近傍 (D<~3kpc) の様々な領域における詳細な観測から、~5--10 Myrと求められてきた。しかし、この結果は太陽金属量下の限られた環境においてのみ適用できるものであり、より普遍的な惑星形成を考える上では、様々な環境での円盤寿命を明らかにすることが必須となる。また、異なる環境下における円盤寿命の変化の有無を調べることにより、円盤進化モデルに制約をつけることができる可能性がある。
われわれはこれまでに、金属量が低い(~-1dex)ことで知られる“銀河系外縁部”(銀河中心からの距離 Rg > 15kpc) における星生成領域の近赤外線でのdisk excessの残存率(disk fraction)を求め、原始惑星系円盤の寿命が太陽近傍のものに比べて非常に短いことを明らかにし、円盤寿命に金属量依存性があることを示唆した。次のステップとして、太陽近傍に比べて金属量が高いことが予想される銀河系内縁部(Rg ~ 4 kpc) に着目し、明るいために多数のデータがアーカイブから得られる中質量星のdisk fractionをまず導出した。その結果、太陽近傍の円盤寿命を大きく越えた年齢(~20 Myr)の星生成領域においても高いdiskfractionが得られたが、これは銀河系内縁部では円盤寿命が非常に長いことを示唆する。
高木 悠平 (兵庫県立大学 西はりま天文台)高分散分光観測による原始惑星系円盤の進化タイムスケールの解明
原始惑星系円盤の進化タイムスケールを観測的に明らかにするには、前主系列星の年齢決定が重要である。一般的に前主系列星の年齢は、測光観測求められる前主系列星の光度と有効温度をHR図上の進化トラックと比較して決められるが、光度に大きな不定性があるため、正確な年齢決定も困難になる。
本研究では、YSOの表面重力決定に基づいた年齢決定手法を用いて、おうし座分子雲中のYSOの年齢を決定した。この手法では、近接する大気吸収線の等価幅比を用いるため、YSOの距離、減光、ベーリングに依らず、年齢を決定できる。この手法によって求められた年齢と円盤による赤外超過量を比較したところ、これまでの測光的手法では分かっていなかった年齢と赤外超過量の相関を導くことができた。本講演では、おうし座分子雲での原始惑星系円盤の進化タイムスケールに加え、へびつかい座分子雲での円盤進化についても議論したい。

ポスター


名前(所属)タイトル・アブストラクト
髙田 智史 (京都大学)Pattern dynamics of cohesive granular particles under a plane shear
サブミクロンオーダーの微細粒子ではマクロな粉体粒子とは異なり、粒子間に分子間力・静電相互作用が働く。その際、粒子間の相互作用と非弾性衝突により、気液相転移と散逸構造の競合が起きる。そこで本研究では粒子間相互作用がLennard-Jones ポテンシャルとダッシュポットで記述できる粒子系にせん断を加えて、3次元分子動力学シミュレーションによって非平衡パターン形成を調べた。またLennard-Jones系の流体方程式を導出し、シミュレーションの結果を再現できるかについても議論する予定である。
山田 耕 (早稲田大学)Type I惑星移動に対するダストの影響
本研究では、TypeI惑星移動に対するダストの影響を見積もる。ガス円盤内でダストが成長すると、ガスとの相互作用で内側へ移動する。円盤内でのダスト進化を調べた過去の研究から、惑星形成が起こると予想される内領域(<10AU)では、該領域からのダストの内側移動によってダスト密度が初期の密度の数倍から10倍ぐらいまで増すことが報告されている。我々は、大量のダストが外から降ってきたときに、それらが惑星とガスとの重力相互作用にどのように影響するのかを調べた。大量のダストがあると、ダストから惑星にかかるトルクが無視できなくなるほど大きくなる。ダスト量、サイズとダストトルクとの関係を考えていきたいと思っている。
長谷川 幸彦 (大阪大学)ダストサイズ分布を考慮したダスト層での Shear 不安定
原始惑星系円盤のダスト層内でのshear不安定によるガス乱流とそれによるダスト巻き上げは、ダストの沈殿を妨げてダスト層の重力不安定を起こりにくくさせる。そのため、shear不安定はダスト進化に大きな影響を与える重要な要素のひとつである。ダストの公転速度のshearに起因するKelvin- Helmholtz不安定(KHI)が起こるかを調べるための指標として、Richardson数と呼ばれる指標がある。このRichardson数がある臨界値を下回るとKHIが起こると考えられている。Sekiya (1998)はある領域全体でRichardson数が臨界値をとるような場合の密度分布を計算し、原始惑星系円盤が重力不安定を起こすのに必要なダスト量を導いた。しかし、このRichardson数はあくまでもKHIが起こるかどうかの指標であり、これが臨界値を下回ったとしてもそれによって起こる KHIの成長率が小さければ、ガス乱流が発生する前にダストはさらに沈殿することが可能であると考えられる。Sekiyaand Ishitsu (2000, 2001)やMichikoshi and Inutsuka (2006)はこのKHIの成長率を線形解析を用いて計算した。しかし、その計算は特定の密度分布を仮定していた。shear不安定はダスト密度分布が重要であるため、計算にはダストの沈殿を反映したダスト密度分布を用いる必要がある。本研究ではダストの沈殿によって得られたダスト密度分布を用いてKHI の成長率を線形解析を用いて計算した。その結果、ダストのサイズ分布を考慮した場合は、ダストが単一サイズのみの場合と比べてダスト密度分布の発展が大きく異なるため、円盤赤道面でのダスト密度が同じ場合でもKHIの成長率は大きく異なった。この他に、Richardson数の臨界値についても議論する予定である。
髙附 翔馬 (東工大)原始惑星系円盤表層の水氷に対する光脱離反応によって現れる散乱光の特徴
円盤表層における水氷の存在を観測的に探ることは容易ではないが,Inoue et al. (2008)によって新たな方法が提案された。これは,水氷の3.1 μm における吸収を利用するものである。この方法を用いてHonda et al. (2009)は,HD142527周囲の原始惑星系円盤表層に存在する水氷の検出に成功した。一方,円盤表層における水氷の安定性について調べた Oka et al. (2012)によると,中心星からのUV放射が強い場合(比較的早期のHerbig Ae/Be型星など)には,光脱離反応のため氷微粒子が円盤表層に安定に存在できない。それに対し中心星UV放射が弱い場合(比較的晩期のHerbig Ae/Be型星やT Tauri型星など)では,円盤表層に氷微粒子が存在し得ると考えられる。
本研究では,軸対称原始惑星系円盤モデルに対して輻射輸送計算を行い,氷微粒子に対する光脱離反応の有無によって, 観測される散乱光にどのような違いが生じるかを調べた。Kバンド(2.2 μm), H2Oバンド(3.1 μm), L'バンド(3.8 μm)について, 円盤の各所で観測されるであろう散乱光の表面輝度を求めた結果,光脱離がない場合では表面スノーライン付近でピークがみられた一方で, 光脱離がある場合ではこのピークはみられなかった。また, 光脱離反応の有無に関わらず, H2Oバンドの減光がみられ, 水氷の吸収があることがわかった。しかし, この減光量は光脱離がない場合とある場合では有意に違うため, 光脱離反応の有無を判断する指標になり得ると考える。
上田 裕太 (東京大学/東工大)有機物マントルをもつダストにおける衝突合体可能速度の温度依存性
 原始惑星系円盤内では、ミクロンサイズのダストがキロメートルサイズの微惑星へと合体成長すると考えられているものの、理論的な解明には至っていない。従来の理論研究においては、ダストの構成成分として考慮されてきたのは氷もしくはシリケイトのみであり、有機物の存在は考慮されてこなかった。ミリメートルの厚さのダスト有機物層への衝突実験(Kudo et al.2002)によると、有機物に覆われたダストの衝突合体可能速度は特定の温度で著しく上がる。しかしながら、有機物で覆われたダストがミクロンサイズである場合に、そのアグリゲイトの衝突合体可能速度がどのような温度依存性をもつかは未解明である。
 本研究の目的は、有機物の存在が考慮されたサブミクロンサイズのダストによって構成されるアグリゲイトの衝突合体可能性を明らかにすることである。この結果から、微惑星形成に示唆を与えることが可能となる。本研究では、まずはじめにシリケイトコアを有機物マントルが覆っているような層構造のダストの衝突合体可能速度を、Kudo et al.(2002)と同じ温度で、JKR理論を用いて推定した。JKR理論は、付着力をもつ弾性体球に対する接触理論である。我々の推定では、200Kを超えると衝突合体可能速度が上がるという温度依存性がみられる結果が得られた。これは、温度の増加に伴って、有機物の弾性率が減少し接触面積が増加することによって、付着力が強くなったためだと考えられる。この結果は、ダスト表面に有機物が存在する温度領域ではダストの衝突合体効率が上がることによって、他の領域よりも早くダストサイズの成長が起こることを示唆するものである。
和田 義輝 (東工大)巨大惑星の重力トルクと原始惑星系円盤の進化に関する1次元数値シミュレーション
本発表では、空間1次元の流体シミュレーションの結果をもとに、惑星が置かれた原始惑星系円盤の時間進化について議論する。Alexander and Armitage (2009)では惑星が置かれた円盤の進化を1次元計算で求めている。しかし彼らは、惑星・中心星の質量比のみに依存するギャップフローモデルを用いて計算している。つまり、ギャップを横切る質量や惑星降着率の見積もりに、ギャップの形などは考慮されていない。
本研究では、1次元シミュレーションを行い、ギャップフローの計算にはTanigawa and Watanabe (2002)で得られた結果を適用する。彼らは、2Dシミュレーションにより惑星近傍のガスの流線を計算し、ガスがHorseshoe軌道をとる領域、惑星を通過する領域、惑星に降着する領域を定量的に示した。本研究ではそれらの領域を1次元計算に適用することでギャップフローを見積り、円盤進化を解いた。これにより、惑星が円盤に与えるトルクの表式やギャップの形の違いを考慮した円盤進化を求めることが可能となった。発表では、これまでに指摘されているいくつかのトルクの表式を適用した数値計算結果を示し、円盤進化を議論する。
田崎 亮 (京都大学)高空隙率ダストの光学特性計算と原始惑星系円盤表層部におけるダストのダイナミクス
彗星には非常に高温を経験したダストが含まれているということが様々な観測によって示唆されている。それらのダストは原始惑星系円盤の内縁部で形成され、その後、彗星が形成されるような円盤外縁部まで運ばれたと考えられている。そこで本研究では、中心星輻射圧によって高空隙率ダスト (アグリゲイト) が外側に向かって移動する効果について調べた。まずアグリゲイトに働く輻射圧を求めるために、アグリゲイトの光学特性について計算を行なった。光学特性は Effective Medium Theory(EMT) 及び、T-Matrix method for Clusters of Spheres(CTM) の2種類の数値計算法を用いた。その結果、モノマーのサイズが 0.01μm の 時、EMT と CTM による結果はほぼ一致し、輻射圧と重力の比 β ∼ 0.04 程度となった。しかし、モノマー のサイズが0.1μm の場合、CTM による計算は β ∼ 0.2、EMT は β ∼ 0.04 となり、2つの計算法に差が現れることがわかった。講演においては、得られた結果を元に原始惑星系円盤上層部におけるアグリゲイトの運動について議論する。
柴田 雄 (東京大学)原始惑星の自転特性の決定
現在の惑星形成の標準シナリオでは、地球型惑星形成の最終段階は原始惑星どうしの衝突合体である。地球型惑星の自転はこの合体によってもたらされる角運動量によって決まると考えられている。これまでに、この過程から決まる地球型惑星自転の研究が行われている(Kokubo & Ida 2007; Kokubo& Genda 2010)。これらの研究では原始惑星の初期の自転角運動量を0としているが、現実的な地球型惑星の合体条件や自転を調べるためには、原始惑星の自転を考慮する必要がある。しかし、これまで現実的な微惑星集積を解きながら原始惑星の自転を計算した研究はない。原始惑星の自転を調べるためには、その構成要素である微惑星の運動と集積を計算する必要がある。微惑星集積に伴う自転角運動量の集積を計算することで、原始惑星の自転を調べることができる。
本研究では、N体計算を用いて微惑星の集積と自転角運動量の集積を計算し、原始惑星の自転の特性について調べている。計算の初期条件として、最小質量円盤モデルの面密度で微惑星を恒星周りにリング状に分布させた。このリングの半径は1 AUとし、簡単のため微惑星の質量はすべて10^23 gとした。合体条件は完全合体を仮定した。過去に行われた地球型惑星の自転の研究では、原始惑星衝突の向きの等方性によって、惑星の自転軸傾斜角が等方的に分布した。微惑星円盤内でもランダム速度が卓越しており、円盤の厚みも微惑星サイズよりはるかに大きく等方的に衝突が起こる。このため原始惑星の自転軸傾斜角分布も等方的になる。講演では、自転軸傾斜角だけでなく自転角速度についてもその微惑星系の物理量への依存性について議論する。
國友 正信 (東工大)原始惑星系円盤からの質量降着を考慮した前主系列星の進化
原始惑星系円盤は普通前主系列星周りに存在している.原始惑星系円盤は中心星の重力や輻射の影響を受けて進化するため,中心星の進化は重要である.
近年の星形成の研究から,太陽質量程度の恒星も初期には木星質量程度の原始星であり,強い降着により質量を獲得することがわかっている.その際に,輻射によるエネルギー損失が効率的で降着物質のエントロピーが低ければ,従来の林トラックのような前主系列星の進化とは大きく異なる進化を辿ることが近年示された.つまり,原始星から太陽質量の星の形成において,従来に比べ光度が非常に小さいまま進化が進むことがわかった.さらに,半径も小さいまま進化が進むため中心温度が高く,星の年齢が数百万年という早い段階で大きな輻射層が発達しうることが明らかになった.
前主系列星の対流層の進化は,星の表面組成や磁場,惑星との潮汐散逸などの観点で重要である.しかし,強い降着と効率的なエネルギー損失を考慮した計算での対流層の進化は,現在一つの条件下でしか調べられていない.そこで本研究では,様々な条件下での対流層の進化を調べた.
その結果,恒星進化コードによってエントロピーの取り扱いが違うことが,恒星半径や対流層の進化に大きく影響を及ぼすことがわかった.さらに,質量降着率や降着物質のエネルギー損失の効率の違いによる対流層の変化についても調べた.得られた対流層の質量の進化をもとに,恒星表面の組成進化についても議論する.
さらに,H-R図上での進化トラックの違いについても示し,前主系列星の質量の見積もりに影響を及ぼしうることについても議論する.
石本 大貴 (京都大学)原始惑星系円盤の化学進化におけるダスト成長の影響
惑星は原始惑星系円盤内のダストが衝突合体することにより形成されると考えられている。transitional diskのような進化した円盤も観測されてきており、そのような円盤を理解するためにダストが成長した場合の円盤化学構造の理解も重要になってくる。本研究では、原始惑星系円盤の化学反応計算においてダストサイズを変更することで、ダスト成長が円盤の化学組成や分子輝線にどのような影響を与えるか調べた。ダストを大きくした場合、紫外線が円盤の深くまで浸透するため、密度の高い赤道面付近でもCNなどの光化学反応によって生成される分子の存在量が大きくなった。また、単位体積当たりのダスト表面積が小さくなるために、気相分子がダストに凍結しにくくなり、温度の低い円盤赤道面の外縁部でも分子が気相に存在しやすくなっている。
原 千穂美 (東京大学)SMA observations toward Keplerian disk in the Class-0/I protostar, [BHB2007]#11
原始惑星系円盤は惑星が出来ると考えられている星形成において最も重要な領域の一つである。しかし、この原始惑星系円盤がいつどのように出来るのかは、原始星の初期段階において円盤が深く埋もれている為に未だに明らかになっていない。
我々は Submillimeter Array (SMA) を用いて、近傍の Class-0/I 原始星、[BHB2007]#11 (B59#11) に対して観測を進めてきた。B59#11 は角運動量の大きな (J/M ~ 2.1e-3 km/s pc) envelope を有しており、回転平衡に達する半径も大きいと考えられるため、円盤の初期状態を観測するのに適した天体であると考えられる。
空間分解能 ~2'' の 13CO、C18O 輝線の観測から B59#11 にはコンパクト (半径 ~ 800 AU) な放射が付随しており、双極分子流の方向と垂直な速度勾配を持つ事が明らかになった。また、この速度勾配はほぼ半径のベキ乗でフィットされた。これは B59#11 に付随する高密度ガスが比角運動量を保存しながら収縮する envelope (vrot ∝ r^-1) もしくは回転平衡の状態にある (vrot ∝ r^(-1/2)) ことを意味している。また、我々は半径 ~1'' (130 AU) のところでベキ乗則が変わっている事を明らかにした。この事は半径 ~130 AU のところで回転平衡円盤が形成されている可能性を示唆する。Kepler 回転から中心星の質量を計算すると ~1.3 Msun であり、SED の形状から求めた中心星の質量、0.81 Msun とほぼ一致していた。
木村 成生 (大阪大学)ダストに働く揚力の効果
原子惑星系円盤内でダストが合体成長するためには、ダスト同士の衝突が必要である。ダストの衝突はダスト同士の相対速度があることで起こるため、円盤内でのダストの運動が重要である。原子惑星系円盤内ではダストはガスと相対速度を持っているため、一般にはダストには揚力と抗力が働く。円盤内のダストは衝突をすることで回転することも考えられるため、揚力が働く可能性がある。しかし、これまでにダストに働く揚力を考慮した研究は行われてこなかった。そこで、本研究ではダストの運動に揚力が与える影響を考察する。
揚力がある場合にダストの運動にどの程度影響が出るかを考える。揚力入りの運動方程式を考え、ダストの自転の向きを等方と仮定する。このときの速度分散を揚力と抗力の大きさをパラメータとして求めた。その結果、抗力が小さいが揚力が大きい場合には、揚力が働かない場合よりも大きな速度分散を持つことが分かった。また、揚力が働くには回転が続く必要がある。そこで、ダストの衝突により回転が駆動されると仮定して、粘性がストークス則の場合に回転が持続できるかどうかを見積もった。結果、最小質量円盤の場合には回転が駆動され続けるパラメータ領域が存在することがわかった。
藤井 悠里 (名古屋大学)周惑星円盤の粘性進化と温度構造
 ガス惑星形成期には、円盤を形成しながらガスが惑星へと降着する。ガリレオ衛星などの衛星系はこの周惑星円盤と呼ばれるガス円盤で形成されたと考えられており、衛星形成を理解するにはその形成環境である周惑星円盤の構造や進化についての理解が不可欠である。我々のこれまでの研究により、周惑星円盤ガスは宇宙線などによる非熱的電離では磁気回転不安定性(MRI)の駆動に十分な電離度が得られないことが分かった。よって、外部からの流入に比べ惑星へのガス降着が少ないために周惑星円盤の面密度は大きくなることが期待される。
 もしMRI以外に重力的に安定な円盤の質量降着メカニズムがなければ、周惑星円盤には重力不安定が起こるまでガスが降り積もる。よって本研究では重力不安定性に着目し、周惑星円盤の面密度構造及び温度構造を調べた。重力不安定による角運動量輸送はTakahashi et al. (2013)で求められた実効的な粘性定数の表式を用いた。そして、 重力乱流によって円盤が局所的に加熱されると仮定し、円盤温度を求めた。赤道面の温度が1000Kを越えると熱電離によってMRIが駆動されるので、本講演ではその効果も考慮して面密度進化について議論する。