吉田文彦『迫りくる核リスク 〈核抑止〉を解体する』(岩波書店)
(2024年11月読了)
2024年のノーベル平和賞は日本原水爆被害者団体協議会に対して授与された。高校受験の際に軍縮に関するいくつかの条約を覚えさせられて以降このトピックについて注意を払う機会がなかったが、このノーベル賞を機に本書を手に取ってみた。
これまでの核不拡散体制は、1970年に発効した核不拡散条約(NPT)のもとで推進されてきた。本条約では米国・ロシア・英国・フランス・中国の5ヶ国を核保有国として公認し、それ以外の国への核拡散を禁止している。本書は本条約について「NPTが相当程度、核軍縮・不拡散に貢献してきたことは評価されるべき」(31頁)としているものの、いわゆる核の傘を含む核抑止を禁止していない点で、核使用リスクを払拭しきれているわけではない。そこで2017年に採択され、2021年になって発効したのが、核兵器禁止条約(TPNW)である。TPNWでは核兵器の保有や使用が禁止されており、NPTよりはるかに踏み込んだ取り決めになっている。すべての国家がTPNWに参加すれば核の問題は一応解決ということになるはずだが、日本を含め(拡大)核抑止に依存する国の参加は実現していない。
それでは、このまま核抑止に依存していればよいのだろうか。筆者は核抑止依存に反対の立場から、核抑止にひそむ問題点を指摘している。そもそも核抑止の理論は合理的な意思決定を前提にしており、不合理な権力者が核を使用してしまうリスクが残されている。また、人為的・機械的ミスによって偶発的に核が使用されてしまう可能性は常に存在する。実際歴史を振り返ってみると、あやうく核が使用されそうになった事故が複数回知られているらしい。
ひとつ面白いと思ったのは、いわゆる核の冬理論の最近の進展である。1983年にカール・セーガンらによって提唱されて以来(Turco et al. 1983)、イデオロギーにもとづく論争がありつつも、より進んだ気候モデルを用いた核の冬の理論予測が進められてきているらしい。最近の計算(Xia et al. 2022)では、インド・パキスタンの2国間に限った核戦争を仮定しても、全球的な気温低下とそれに伴う飢饉によって20億人が死滅する可能性があると見積もられている。
参考文献
Turco et al., Nature, 222, 1283 (1983).
Xia et al., Nature Food, 3, 586 (2022).
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