山本圭『嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する』(光文社)
(2024年3月読了)
政治思想や倫理といったトピックに少しだけ興味があるので手に取ってみた。
カントの定義では、嫉妬というのは「他人の幸福が自分の幸福を少しも損なうわけではないのに、他人の幸福をみるのに苦痛を伴うという性癖」らしい(あるある)。嫉妬というのは定義からして不合理な感情ではあるけれども、オマキザルも似たような感情を抱く実験的証拠があるらしい。本書では深く議論されていないけれど、こういう感情が根付く進化心理学的な合理性みたいなものはあるのだろうか。
嫉妬というのは一見プライベートな感情にすぎないように思われるが、「正義」とか「平等」といったリベラルな価値観というのが、実は「嫉妬心の隠れ蓑」にすぎないのではないかという疑いが真剣に議論されていて面白かった。ロールズもこのあたりを議論していて、真に公正な社会では嫉妬は抑制されると考えていたらしい。ところが、社会が公正になれば自らの劣位を他人のせいにできず、むしろ劣等感が増幅されてしまう可能性も指摘されていて、そううまくはいかないらしい。
ところで、本書で紹介される事例の一つで、ヨルダンの宿では宿泊客が宿の備品を誉めたら、主人は「よかったらお持ちになってください」と言わなければならないし、客はそれを辞退しなければいけない、というのがあった。これは主人が客に賄賂を贈ることで、客の嫉妬心を抑制できるということらしいのだが、ヨルダンの宿事情難しすぎる……。
戻る