塚本邦雄『菊帝悲歌 小説後鳥羽院』(河出書房新社)

(2025年8月読了)

 後鳥羽天皇は、平安時代から鎌倉時代に移り変わる激動の時代に在位していた天皇である。歴史の教科書を見てみると、上皇として院政を行い権力を集中したこと、幕府と対立し1221年には承久の乱を引き起こしたこと、『新古今和歌集』を編纂させたこと、などが書かれている。本作はそんな後鳥羽院の人生を描く歴史小説である。
 本作は歴史的仮名遣いを用いて書かれているほか、随所に和歌が(平明な説明なしに)挿入されており、気軽に読める作品というわけではない。また、歴史的人物が大量に登場するため、いちいちググりながら読み進めることになった。しかし、じっくり読んでいると後鳥羽院の烈しい心情が伝わってくるようで、楽しい読書体験であった。和歌を鑑賞する能力があればもっと楽しめたのだろうと思われる。超新星を記録した『明月記』で天文関係者に知られている藤原定家も登場するが、後鳥羽院とはあまり関係がよくなかったらしい。

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