ANIPLEX.EXE『たねつみの歌』

(2025年1月読了)

 〈注意〉以下の感想はネタバレを含みます!

 ANIPLEX.EXEは、アニメ化され話題となった『ATRI -My Dear Moments-』やシナリオライターに瀬戸口廉也氏を迎えた『ヒラヒラヒヒル』等で知られる新興ノベルゲームブランドである。本作品はその最新作にあたる。
 本作品は母・私・娘の親子3世代の物語である。この3人が時を超え、高校生の姿でファンタジー世界に召喚される。家族というのはノベルゲームの王道テーマの一つであり、すでに数々の傑作がある。しかし、本作はユニークな設定と高い表現力、重層的な語りで、ノベルゲーム史に残る作品となっていると思う。
 本作品では多様な問題が提起されていて挙げるとキリがないが、一つ気に入っているのは夏の国編である。夏の国の人々は自らの生み出した文明を過信し安全神話を妄信した結果、巨大な津波に飲まれて滅亡してしまう。この部分はもちろんポスト震災ものとして読むことができ、こういうテーマがノベルゲームという媒体で出てくるんだ……という感動があった。2030年代生まれで最も未来側に生まれたツムギが合理的思考――つまりは疑い続けること――の大切さを説いていたのが印象的だった。また、作品全体を通して未来世代への責任をどう果たすかという議論がなされていて、特異なファンタジー設定とアクチュアルな問題を結びつけるのがうまいように思われた。
 また、時を超えて3世代が集結するという特異な設定から、娘の存在が親の人生から子を産まない自由を奪ってしまうのではないかという逆向きの論理が披露される。この懸念を「加害」というかなり直接的な言葉で表現してくるのには迫力があった。通常の反出生主義では親から子への加害として定式化されると理解しているが、本作品ではタイムトラベル設定を生かして逆転した提示の仕方をしている。とはいえ娘だって好きで生まれているわけではないので思い悩んでも仕方がない気がするのだが、家族をテーマにしながら家族の自明性を疑い続ける勇気には敬服した。

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