高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』(東京創元社)
(2024年4月読了)
2023年から翌年にかけて放映されていた『SYNDUALITY Noir』というSFアニメがある。本作はアニメで描かれた世界の前史である。
アニメの舞台は西暦2242年で、〈ドリフター〉と呼ばれる人々が「人に寄りそう」AIたる〈メイガス〉の補助のもと、〈コフィン〉というロボットを操って〈AO結晶〉なる謎の物質を収集しているという話であった。アニメの中ではメイガスやAO結晶とは何ぞやというのはほとんど語られていなかったように思う(あまり真面目に視聴していなかったので説明を聞いていなかっただけかもしれないが)。一方、本作では2099年の〈新月の涙〉事件から地下国家アメイジア成立、そしてメイガス発明に至る歴史が描かれており、アニメの背景が分かるようになっている。著者は物理や数学のハードな概念を持ち出す作風で知られていて、本作でもメイガスの(正確にはオルガノイド・インテリジェンスの)基礎理論として圏論や双対性=dualityの話が出てくる。
しかし、敵であるエンダーズとは結局なんなんだといったアニメを見たときの疑問の一部は、本作でも解決されていない気がする。それでも、アニメ世界の立ち位置がだいぶはっきりしてよかった。シリーズのアイコンになっているナブラ記号は「人と世界とメイガスのあいだにあるはずの三つの双対性」(315頁)を表現しているらしく、タイトルと合わせて感動的である。小説の結末からアニメの舞台までの20年でメイガスの普及とアメイジア崩壊が起きているはずで、そこでは何が起きたのだろうと思っていたら、ゲーム『SYNDUALITY Echo of Ada』がまさにその時代の話になっているらしい(よくできている)。たったの20年であれば本作の主人公たちも生きているはずで、彼女らの行く末も気になるところである。
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