鈴木貴之『人工知能の哲学入門』(勁草書房)

(2024年4月読了)

 近年は天文学・宇宙物理学の分野でも、深層学習を含む人工知能技術の応用が進んでいる。本書はその人工知能に関する人文系からの入門である。
 本書は4部構成になっている。第I部は機械学習以前の古典的技術の話、第II部、第III部は現代的な人工知能の解説、第IV部は人工知能の哲学の話である。天文学の研究をしていると機械学習を用いた研究の話を聞くこともあり、本書の第II部まではどこかで耳にしたことのある話が多かった。理系研究者はそのあたりは流し読みしたらいいと思う。
 第IV部ではAIの倫理や認知科学との関係などについて広く議論されている。一つだけ面白いと思った点を挙げるならば、AIと「美」の関係が議論されていた点である。絵画や音楽の美しさは、その作品の性質に関する単純な規則の集合によって判定することができないと思われる。そこで、従来の哲学では美は「コード化不可能」であるといわれるらしい。ところが、深層学習は特徴量の複雑な非線形関数を表現するのが得意であるため、人間には捉えられない美の一般法則を表現できる可能性があるということらしい(と哲学の素人である私は理解した)。
 近年の類書には『意味がわかるAI入門――自然言語処理をめぐる哲学の挑戦』がある。こちらは人工知能による自然言語処理に関する哲学を中心に議論している。一方、本書は画像処理やゲームAIを含む広い話題を薄く網羅していて、相補的であるように思われた。とはいえ、人工知能を本当に天文学の研究に使うということになれば、こういう人文学からの本を読んでいる場合ではなく、最初から技術的な文献に当たるべきである。

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