大岡昇平『俘虜記』(新潮社)

(2024年5月読了)

 著者は1944年7月にフィリピンのミンドロ島に派遣され、1945年1月25日に米軍の俘虜となった。当時マラリアに感染していた彼は俘虜病院で治療を受けた後、レイテ島の俘虜収容所に送られる。本書は、著者が捉まる直前から俘虜病院、収容所での生活を経て、日本に帰還するまでの記録である。著者の周りの俘虜の行動や性格について詳細に語られており、情報量が多い。収容所での待遇は国際法に則った手厚いものであり、終戦間際の窮乏極まった内地での生活よりも水準が高かったようである。『奥のほそ道』で描かれたような、日本軍による捕虜の過酷な扱いとは対照的である(これは極端な例だったのかもしれないが)。

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