緒乃ワサビ『天才少女は重力場で踊る』(新潮社)
(2024年7月読了)
作者はノベルゲームのシナリオライターとして有名で、界隈で高い評価を得ている『白昼夢の青写真』や科学史をテーマにした『ニュートンと林檎の樹』のようなSF風の作品で知られている。私の見るところ、緒乃氏はSFノベルゲームの最も信頼できる書き手の一人である。本作はそんな作者の初めてのオリジナル小説である。
本作はオーソドックスな時間SFであり、情報を過去に伝えるタイムマシンが引き起こすパラドックスを避けるために、ヒロイン="天才少女"と主人公が恋愛をしなければならない、という筋書きである。このタイムマシンはリング状のレーザにより生み出される重力場を用いたもので、実はEinstein方程式の解として実際に得られている(Mallett 2003)。ただし、この時空はレーザのパワーP→0の極限でMinkowski時空に戻らないという病的な性質があり(Olum & Everett 2005)、現実にタイムマシンを作ることは難しいようだ。
参考文献
Mallett, Foundations of Physics, 33, 1307 (2003).
Olum & Everett, Foundations of Physics Letters, 18, 379 (2005).
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