奥泉光『グランド・ミステリー』(KADOKAWA)
(2025年6月読了)
作者は1994年に芥川賞を受賞した著名な作家で、昨年には1000ページを超える大著『虚史のリズム』を著している。本は厚ければ厚いほうがよいし、史実も嫌いじゃないけれど嘘の歴史はもっと好きといったところがあるので、近いうちに『虚史のリズム』に挑戦したいと思っている。今回はその前段階として、作者の前著である本作を読むことにした。噂によると『虚史のリズム』ともつながりがあるらしい。
本作もまた、文庫でおよそ950ページある大部な本である。あえて分冊していないのが嬉しい。本作は、1941年の真珠湾攻撃において、空母「蒼龍」に着艦したパイロットが不審な服毒死を遂げることから始まる。基本的には主人公の加多瀬大尉がその事件を調査し真相を明らかにしようとするという筋書なのだが、中盤から歴史改変SF的な仕掛けが登場して複雑怪奇な構成をとりはじめる。右から左まで多様な思想を持った多くの登場人物たちが日本(人)や戦争について議論を戦わせるところも読んでいて楽しかった。長い小説にありがちな冗長さというのはまったく感じなかった。
この作家の特徴なのか本作だけの特徴なのかわからないが、地の文の一文一文がかなり長く、はじめのうちは若干の読みづらさを感じた。さすがにしばらく読むと慣れるのだけれど。
戻る