河野裕『彗星を追うヴァンパイア』(角川書店)

(2025年1月読了)

 〈注意〉以下の感想はネタバレを含みます!

「人類が手にした、学問というものの本質は――」
「その速度ではなく、たしかに進み続けることだ」
(本書238頁)

 よく知られているように、1687年に出版された『自然哲学の数学的諸原理』(『プリンキピア』)によってニュートン力学が成立し、近代物理学の時代が幕を開けた。しかし本作は、ヴァンパイアという『プリンキピア』により説明されえない超常的存在がニュートンの弟子、オスカー・ウェルズの前に出現する場面から始まる。そんな「怪物」を、あえて自然哲学=自然科学的手法で解き明かそうと奮闘する人々の話である。折しも時代は名誉革命の前夜であり、オスカーはその政治的混乱に巻き込まれる。それでも着実に研究を進めたオスカーは一定の実験的知見を得ることに成功するものの、敵対するヴァンパイアの策略によって命を落としてしまう。それではオスカーの研究は無駄だったのであろうか? 答えは否である。なぜなら、次の世代に知識を伝える教育と、ヘンリー・オルデンバーグが作り上げた学術出版システムによって、人類は答えに向けて歩き続けるのだから……。
 最近は壮大なガジェットではなく科学の手法そのものに着目したフィクションが流行りをみせていて(?)好ましい気がする。テイストは違うが『恋する小惑星』とか伊予原新さんの一連の作品(未読)など。

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