伊予原新『オオルリ流星群』(KADOKAWA)

(2025年2月読了)

 作者の伊予原さんは科学と人間の温かいかかわりを描く作品で有名な作家であり、2025年に直木賞を受賞した。直木賞受賞記念ということで本作を手に取ってみた。
 本作の主要登場人物はみな高校の同級生で1972年生まれの45歳という設定だが、その中でも目を引くのは、国立天文台で研究員をしていたが任期が切れて失職してしまったという山際慧子である。まさに自分の10年後の姿かもしれないし、他人事には思えなかった。任期付研究員の悲哀を描いた作品としては以前にも『ポスドク!』などの例があるが、本作は直木賞作家の作品ということで、ポスドクの窮状がより広く知れ渡ることになるのかもしれない。
 無職になった慧子はしかし研究を諦めず、小望遠鏡を用いたカイパーベルトの観測的研究に私財を投じて挑戦する。本作では特に、慧子が高校同期と協力してその私設天文台を作っていく様子が描かれる。登場人物たちがその活動を通してそれぞれの人生に訪れた危機を乗り越えていく様子は感動的だった。あとがきでも述べられているように、本作に登場する研究計画は実在の研究(Arimatsu et al. 2019)に着想を得ている。作者が地球科学分野のプロということもあり、研究者が読んでも違和感を抱かず物語に没入できる仕上がりになっていた。
 慧子がこの後どのように生計を立てていくのか、その様子は詳しく語られない。私としてはそこが気になるところである。

参考文献
Arimatsu et al., Nature Astronomy, 3, 301 (2019).

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