伊藤俊行『右傾化のからくり 漂流する日本政治の深層』(中央公論新社)

(2024年7月読了)

 著者の伊藤氏は私の高校時代の同級生のお父様であり、今回(なぜか)本書をご恵投いただいたきました。私は(とくに現実の)政治には無関心なことが多く、読者の資格があるのか分かりませんが、ともかくありがたいことです。

 「日本の政治は右傾化しつつある」という言説があるらしい。実際のところ私にはあまり実感がなかったのだが、私自身選挙権を得て10年程度しか経過していないので、数十年スケールの変化が見えないのは自然なのかもしれない。ともあれ、本書では、日本の右傾化なるものにどれほどの内実があるのかという問題について、派閥の力学や選挙制度の変化の観点から迫っていく。
 端的には、この右傾化というのは今のところ皮相的な水準にとどまっているというのが本書の結論である。まず、有権者に対するここ数十年のイデオロギー意識調査によると、自らを保守的あるいは革新的であると思っている人々の割合は大きく変化していないらしい(第12章)。ここ30年の自民党における「保守右派」の躍進は、むしろ1994年に導入された小選挙区制とそれに続く投票率の低下によって、自民党の岩盤支持層の意見が増幅されやすくなったことが理由であるとされる(第8章)。このようにして、従来自民党内の主流派ではなかった、右派的な色合いが強い清和政策研究会(安倍派)の党内での勢力が強まったことが説明される。
 本書では他にも、靖国神社参拝や憲法改正、日韓関係などの近年取りざたされるイデオロギー的問題についての経緯が個々の政治家や派閥同士の関係性にまで遡って詳細に記述されていて、勉強になった。とはいえ、こういう属人的なレベルまである程度考えて投票行動をするというのは素人には難しい気がする。

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