春暮康一『一億年のテレスコープ』(早川書房)
(2024年9月読了)
――遠くを見るってことはな、まだ知らない新しい何かを見るってことだ。(本書17頁)
本作は、「遠くを見る」ことに取りつかれた主人公が電波天文学者として未曽有の彗星VLBIプロジェクトを立ち上げ、地球外知的生命とのファースト・コンタクトを果たす宇宙探査SFである。いうまでもなく、「遠くを見る」ことは、われわれ天文学者の至上命題である。本作の前半部で描かれる、この一見不可能に見えるプロジェクトが青春特有の熱さをもって推進される様子は、天文学の研究が本来もっているロマンを思い出させてくれた。
作者は数年前に『法治の獣』で星雲賞を受賞した、新進気鋭のハードSF作家である。地球外生命の描写に定評があり、本作でも一つの読みどころとなっている。とくに、第五部に登場する「グッドアーサー」が状況によって「相変異」するメカニズムを、遺伝子の構造のレベルから説き起こすのには唸ってしまった。
一つ難癖をつけるとすれば、物理法則を守ったハードSFにしようとするあまり、主人公たちがたどり着いた遠未来でも量子重力理論があまり進んでいないことになっていて、そんな……と思ってしまった。なんなら万物理論が完成しているくらいにしてもよかったのではないか(作劇上、未知の部分があった方が盛り上がるという事情があったのかもしれない)。
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