藤川直也『誤解を招いたとしたら申し訳ない 政治の言葉/言葉の政治』(講談社)
(2025年3月読了)
「誤解を招いたとしたら申し訳ない」というセリフは政治家や偉い人の会見で見られる定型句であるが、これをまともな謝罪として受け取ることは難しい。では、こうした「謝罪もどき」と本物の謝罪の違いは何だろうか。一般に、発言には言行一致の責任が伴う。本書では、この発言と責任の関係を言語哲学の知見に基づき解き明かし、実際の政治家の発言に応用することで、彼女・彼らの発言がどうおかしいのかをつまびらかにする。
本書では、「犬笛」や「イチジクの葉」といった近年問題となっている言論手法が実例を参照しながら解析される。日常生活でこうしたモヤっとする場面に遭遇したとき、本書の記述に立ち戻ってじっくり考えることができると思う。一方、本書の解析は基本的には人々の言語実践を観察・整理した結果の産物であり、「これに従うべき」という規範ではないようにも素人目には見える。その場合、ヒュームの法則を乗り越えて権力者を縛る規範を導出することはできるのだろうか。あるいはまさにその試みが、本書の末尾で議論されている言語行為工学なのかもしれない。
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