Stephen Baxter "Hearthspace" (Gollancz)

(2025年11月読了)

 著者は1年に1冊のペースで新著を出すので毎年楽しみにしている。今年も新刊が出たのでさっそく読んでみた。
 本作の舞台は、100万太陽質量もの重さをもつ超大質量暗黒星である。暗黒星(dark star)は暗黒物質の対消滅によってエネルギーが供給される星で、実在するかはともかく、理論的にはあり得るとされている。そのような超大質量暗黒星が安定して存在しうるほど暗黒物質の密度が高い領域のことを、本作ではHearthspace=囲炉裏空間(?)と呼んでいる。超大質量星の周りには数多くの惑星があるだろうと仮定し、太陽系よりもはるかに広大な星系で2つの国家が争う様子を描いている。もともとの暗黒星のアイデアはPop III星に対するものだったようであるが、そうだとすると金属がないので惑星が形成されるとは考えにくい。しかしながら、そのあたりの設定はあまり語られていない。金属存在下ではさすがにもっと質量は小さくなってしまうのだろうか?
 暗黒星というのはきわめてマニアックで分かりづらいアイデアであって、これで一作描いてしまうというのは著者ならではである。こういう設定が見たくて作者を追っているので嬉しくなった。一方で、シナリオは一方の国家が他方の国家を侵略し、奴隷制を押し付けようとする話で、世界史で見たような話ではあった。せっかく極限的な舞台設定なのに、それがあまり活きない話になってしまっている気がした。歴史の焼き直しなどではなく、遠宇宙の環境下で変容を遂げた人類の姿が見たかった、というのも率直な感想である。

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